感染は自己責任? 「コロナ差別」を生み出した“とにかく自粛”の曖昧さ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/5 ページ)
新型コロナの感染が再び拡大する中、感染者や東京の人などに対する差別が報告されている。ここまで恐れてしまうのは、リスクコミュニケーションが機能していないから。データに基づく行動基準よりも「自粛」という言葉が前面に出ていた。リスク管理と差別を分けて考えるべきだ。
「感染したら、ここで生きていけなくなる」
「個人情報があっという間に広がっていって、すごいですよ。『東京にのこのこと出掛けているのが悪い』『周りのことも考えずに遊んできたのが悪い』と、袋叩きです。感染源にもなっていないのに、東京にいる子どもが帰省しただけで、バッシングされちゃうんだから、本当にひどい。
確かに、東京の感染者数の増え方は怖いし、あまり東京の人に来てほしくないなぁという気持ちは正直なところあります。
でもね、あそこまでバッシングするのもいかがなものか、と。もちろん感染しないような行動はしたほうがいいけど、感染しちゃった人をあそこまで叩くのは、ただのイジメですよね。東京ってだけでバイキン扱いだもの。大人げないですよ。だいたい病院とか介護施設とか、感染予防に気を使ってる施設でも感染しちゃう人がいるわけでしょ? 誰でも感染リスクはあるんだから、明日は我が身なのにね」
……ふむ、なかなか、厳しいです。
そういえば先日、某テレビでも父親から「絶対に帰ってくるな!」というメールをもらった男性を取り上げ、父親にその真意を聞いたところ、「もし感染したら、ここじゃ生きていけなくなる。転職しなきゃいけないかも……」と答えていました。
未知なるものに不安を感じるのは、人として当然の反応です。特に、正体が目に見えない場合、悲しいかな“常軌を逸した言動”をしてしまう場合があります。人類の歴史は感染症の歴史、とはよくいいますが、感染症の歴史は差別の歴史だったりもするのです。
「隣人や自分と同じ土地に暮らす人々を、敵と見なすか、同胞と見なすかで人々の行動が変わる」とは自然災害時の通説ですが、ウイルスのように目に見えない恐怖に遭遇すると、人は見えている「誰か」を危険な存在だと見なし、排除することで、恐怖から逃れようとします。
大抵の場合、それは無意識です。ゆえにとっさに厳しい言葉で相手を遠ざける。後から考えれば、自分がそこまでエキセントリックになったのが信じられないこともしばしば。弱くて強い、という人間の複雑な心情がそうさせるのです。
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