米大統領選と経済と株価:KAMIYAMA Reports(2/2 ページ)
共和党のトランプ氏(現大統領)と民主党のバイデン氏のどちらが大統領になっても、米国経済の成長率予想の差はほとんどないとみている。そもそもコロナ・ショックからの脱却において、政府や中央銀行のとるべき(とることが出来る)政策に大きな違いはない。また長期的に政策の差はあるが、経済成長全体に与える影響は小さい。
大統領によってセクターや銘柄の選別が変わる
民主党と共和党の政策の違いは、ほとんど「分配が変わる」だけである。そうであれば、選ばれる大統領によって選別されるセクターや銘柄が変わる可能性はあるが、狭い範囲のセクターや銘柄に投資する場合は、次の大統領の任期である4年あるいは8年程度の間、選ばれる大統領によってパフォーマンスに差が出る可能性はある。幅広く分散投資する投資信託に投資する場合には、セクターや銘柄の選別はファンドマネジャーに任せればよい。
例えば、バイデン氏は政策として環境保護のためにパリ協定に復帰したいと主張する。これは、米国のシェール関連を中心とした石油業界にとって効率化・増産投資を踏みとどまらせる要因となり得る。また、健康保険制度の強化が実行されれば、健康保険でカバーされる医薬品を製造する企業が市場の期待を集めるかもしれない。トランプ氏であれば、インフラ投資の強化策に石油業のパイプラインなどを含むだろうが、今以上の健康保険制度強化の可能性は低い。
ボラティリティは大統領選挙前に高まろう
2019年10月3日付KAMIYAMA Reports「米大統領弾劾問題」で述べたが、当時からトランプ大統領が再選される確率は低下していた。
当時の世論調査では、トランプ氏支持について農業が盛んな州(以下、農業州)と「スイング・ステート」で陰りが見られるといわれた。スイング・ステートとは、大統領選のたびに共和党か民主党か勝敗が揺れ動く州のことだ。
まず、農業州は米中貿易摩擦で従来から中国が輸入していた大豆などについて、中国から報復にあったことで現政権への不満が根強い。次にスイング・ステートには、ミシガンやペンシルベニアなど不調な産業の集積地が含まれる。トランプ氏が前回の大統領選で、中国などの不公正な生産が原因だとして、関税などで対抗すると主張したことが勝利の一因となった。
ところが、2018年以来の貿易摩擦の後に、このような産業が好調になったとは言えず、スイング・ステートの雇用が改善したとも言いにくい。このような理由から、トランプ氏の再選の確率が下がってきたと考えられるようになっていた。
ビュー・リサーチ・センターの世論調査(2020年6月下旬の調査)では、新型コロナ死者数が人口比で多い地域で、トランプ氏の支持率が大幅に低下していることが示された。スイング・ステートのひとつであるフロリダ州は、前回トランプ氏を選んだが、今回は大幅な支持率の低下に見舞われる恐れがある。保守的とされる高齢者層でも、トランプ離れが見られるとも報告されている。トランプ氏の経済優先の対応が、結果としてうまくいっていないという評価のようだ。
投資の観点からみると、現職大統領であるトランプ氏の支持率低下は、短期的な市場のボラティリティを高めるとの想定につながる。また、トランプ氏は不規則発言を増やす恐れがある。選挙戦の際、学校などで候補者が演説する場合、有権者に耳当たりの良い言葉を無責任に並べる傾向にあるのだが、例えば対中国の関税を引き上げるかのように発言したり、軍事力を行使するような発言をすれば、市場では悪材料となる。
トランプ氏は、現職であるからこそ有言実行すると恐れられるので、市場が神経質になりやすい。これまでのトランプ政権の運営を見る限り、コロナ・ショックからの回復を重視すべき時に、経済を壊す政策を打つとは考えにくい。一方で、バイデン氏が企業にとって敵対的な副大統領候補を選ぶことで、市場がさらに心配を強める恐れはある。ただ、消費者の行動の変化などを想定しない限り、どちらが大統領に選ばれても「分配が変わる」だけなので、投資するセクターはともかく、投資態度を変える必要はないと考える。
筆者:神山直樹(かみやまなおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。
KAMIYAMA View チーフ・ストラテジスト神山直樹が語るマーケットと投資
関連記事
- コロナ後のインフレを考える
エジンバラやロンドン拠点の株式・債券のファンドマネジャーから、これから5年程度の中長期で投資環境を考えるときには「世界的なインフレの可能性」を想定した方が良い、という話題が出された。後になって振り返ってみると転換点になっているかもしれない、ということだ。 - コロナ・ショック後の経済成長と景気
コロナ・ショックは、失業者数などでみるとリーマン・ショックを超えるとみられるが、財政出動や金融支援、ロックダウン(都市封鎖)などの解除で短期間でいったん終息するとみている。そうなれば景気サイクルとみてよいだろう。 - コロナ後の世界 緊急事態から格差縮小へ
財政政策の重要性について、コロナ・ショックの前後で社会の認識が大きく変わる。財政政策を担当する政府と、金融政策を担当する中央銀行の重要性が増すだろう。「コロナ後」の人々は、政府の管理などを以前よりも信頼するようになり、“自由からの逃走”(権力への依存)の傾向が強まるかもしれない。また、GAFAなどと呼ばれるSNSの「プラットフォーマー」たちは、社会的存在意義が増すとみている。 - コロナ対策で世界の財政は崩壊しない
政府財政の悪化がどのくらい許されるのか、という問いに、明確な答えは見当たらない。しかし、インフレあるいは期待インフレ率の上昇により、人々の期待もそれに追随する傾向にある。アフター・コロナの時代は、財政政策が重要となり、5〜10年の単位で見れば、再び金利上昇トレンドに転ずる可能性がある。 - コロナ・ショックからの回復を支える財政拡大
過去最大級の経済対策を決定した日本では、今後感染拡大防止が奏功した段階で、地域活性化などのアイデアの具体化を含む追加対策が打ち出されることになるだろう。米国では、追加の経済対策が議論され始め、欧州でもEUがルールを一時緩和し、機動的な財政政策が打てるようになった。
© Nikko Asset Management Co., Ltd.