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「トヨタVSテスラ」の構図は本当か? 「時価総額」という数字のマジックにだまされるな表面的な数字に踊らされると判断を誤る(3/3 ページ)

テスラの時価総額がトヨタを抜き、自動車業界トップに躍り出た。日本が世界に誇る「あのトヨタ」が新興企業に打ち負かされてしまった。このようなニュアンスの記事を何度も目にしたが、その表面的な数字だけで物事を語ってしまう傾向に強い違和感を覚えている。「時価総額」という数字のマジックにだまされてはいけない――。

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投資家だけが気にすればいい話ではない

 「時価総額の話をされても、自分は投資もしないし関係ない」と思った方がいるかもしれない。だが、この話は投資家でなくても注意しなくてはいけない。ベンチャーブームの影響もあり、この数年は時価総額至上主義のような風潮を感じることが多いからだ。

 SNS上で散見されるのはきらびやかなプレスリリースや、「総額●●億円を調達しました!」と嬉々(きき)として投稿する経営者たち。そして、権威あるメディアですら、時価総額順にベンチャー企業を羅列して、次世代のユニコーン企業だと持ち上げている。

 しかし、これまで述べてきたように、未公開企業の時価総額など水物にすぎない。世界的に前例のない金融緩和が実施されるなかで、ただでさえ株価が上昇しやすい環境にある。昨今では株価を引き上げることが得意な外資系の投資銀行やコンサルティングファーム出身の人間がベンチャー企業の経営陣に入る一方で、投資家はサラリーマン投資家ばかりで横並び意識が強いため、割高だと思われてもメディアに取り上げられていて、有名なVC(ベンチャーキャピタル)が既に投資しているベンチャー企業に新たな投資が集まる。その結果、ベンチャー企業の資金調達においても格差が拡大しているのだ。

 赤字にもかかわらず巨額の時価総額となっているベンチャー企業がいかに多いことか。しかし、実際にはこれらの企業が現在の時価総額よりも評価を上げて上場することはほとんどないだろう。過去には筆者に対して「まずは巨額の赤字を掘ることから始めるのがシリコンバレースタイルだ」と臆面もなく言ってきたベンチャー企業の社長もいたが、企業の本質はいかに利益を出すかである。

 時価総額だけが過度に膨らんだ企業に羨望のまなざしを向けるのではなく、その企業が提供している付加価値や現在の財務状況など複数のデータを見て、実体に目を向けるべきだ。表面的な数字だけで判断するのはやめにしよう。

著者プロフィール

森永康平(もりなが こうへい)

株式会社マネネCEO / 経済アナリスト。証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。その後はインドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国にて法人や新規事業を立ち上げ、各社のCEOおよび取締役を歴任。現在はキャッシュレス企業のCOOやAI企業のCFOも兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員。著書に『MMTが日本を救う』(新書/宝島社)や、父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(新書/ KADOKAWA)がある。 Twitter:@KoheiMorinaga


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