アフターコロナに求められる、AIに使われない働き方:アフターコロナ 仕事はこう変わる(2/3 ページ)
政府と経済4団体による脱ハンコ宣言や、大手企業のテレワーク導入などは、それを象徴している。日本社会のデジタル化を阻んできた分厚い壁が崩壊し始めたのだ。デジタル化されてしまえば、AIの活躍の場は増える。結果的に、データを処理する、単純な条件で判断をする、といった仕事はどんどんなくなっていく。
クラウド会計が浸透しても会計知識は必要不可欠
筆者はクラウド会計のコミュニティなどにも参加しており、公認会計士や税理士と意見交換することも多い。その中で「クラウド会計で自計化をさせたら大変なことになった」という話を聞くことが増えてきた。
「自計化」とは、企業や個人事業主が自ら会計ソフトにデータを入力することだ。自計化をするためには社内で経理処理する必要があるが、日々の取り引きを素早く会計データに反映できるようになり、経営管理レベルが一段上がるため、自計化の支援をする税理士事務所も多い。
しかし、クラウド会計のシェアが増えるに従って「自計化問題」が発生するようになった。クラウド会計は、銀行口座やクレジットカードなどからデータを取得し、簡単に経理処理ができる。勘定科目や税区分なども取引内容からAIが推測してくれるため、ポチポチとクリックしていくだけで記帳ができ「誰でも簡単にできる」がウリだ。
これまでの会計ソフトは、一定レベルの会計知識がある人しか使うことができなかった。自計化するということは、会計知識を備えたスタッフが社内にいることを意味する。しかし、クラウド会計はクリックをしているだけで処理を進められるため、本来であれば自計化のレベルに達していない企業でも「自計化できた」と勘違いしてしまう。
顧問先から渡された会計データが、売上や費用が二重に計上されている、現預金の残高がマイナスになっている、買掛金や未払金の取引がグチャグチャで正しい残高が分からないなど、ひどい状態で頭を抱える税理士は多い。
会計知識がある人ならBSとPLをチェックして即座におかしいと思うはずだが、その知識もないためおかしいことに気づくことすらできない。
時折SNSなどで「クラウド会計がもっと浸透すれば、会計知識がない人でも正しく会計処理ができるようになる」といった意見を見かけるが、とんでもない勘違いである。入力が楽になることと、正しい会計処理をすることとはまったく別の問題だ。
現時点のAIなどが判断し推測や処理ができるのは、1つ1つの簡単な登録処理に過ぎない。正しく入力されるように設定したり、入力された結果をBS・PLで確認したりするのは人間の仕事だ。
クラウド会計はこれまでの会計ソフトにはなかった便利な機能が多数あり、経理業務の効率化には非常に有用なツールではあるが、経理担当者の会計知識が不要になるわけではない。処理の自動化などが行われてしまうため、会計知識がない担当者が使用するとむしろ正しい会計処理を行うことができない。
関連記事
- freeeを受け入れられないベテランたち 成功事例と失敗事例
導入後にバックオフィスの担当者による賛否が真っ二つに分かれるのが会計freeeの特徴だ。freee導入によって大幅にバックオフィスが効率化された会社もあれば、逆に全く使いこなせずに現場が混乱し、結局従来の会計ソフトに戻してしまった会社もある。成功と失敗を分けたのは何だったのか? - freee上場 クラウド会計に続くビジョンを話す
クラウド会計ソフトを提供するfreeeが12月17日、東証マザーズに上場した。公開価格は2000円で、初値は2500円となり、時価総額は約1200億円。 - 日本の生産性を押し下げる「経費精算」が無くならない根本理由
多くの会社員にとって、最も身近な事務処理、経費精算。しかし社員、経理担当者の双方にとって経費精算処理の難しさは、領収書などの原本回収が必須になることだ。電子帳簿保存法の改正はあったが、現時点でも導入企業はたったの2000社弱。中小企業にとってはむしろ導入コストや運用コストが増えるだけで、ほとんどメリットがないのが電子帳簿保存法だ。 - freee“10倍値上げ”問題から考えるサブスクエコノミーの落とし穴
今週上場したfreeeの波紋が後を引いている。freeeが提供する法人向け会計サービス内容の改定が今月上旬に発表され、これが実質“10倍値上げ“になるとSNS利用者の間で解釈されたためだ。 - SaaSはバックオフィスの何を変えるのか
バックオフィス業務を支える便利な道具に、SaaS(サース)がある。営業やマーケティングの分野が先行して導入が進んだが、ここにきてバックオフィスにもSaaSの活用は広がっている。SaaSを導入して効率化された企業もあれば、逆にうまく活用できずに生産性が下がってしまったという企業もある。その違いはどこにあるのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.