パッケージ刷新で販売が2倍に! 再起を狙う「伊右衛門」が貫いた緑色:「一目で分かる」を追求(2/3 ページ)
サントリー「伊右衛門」が4月のリニューアルで販売を伸ばしている。リニューアル直後の1カ月間は直前と比べて2倍の販売に。6月は前年同月比1.6倍だった。伸び悩みから脱するために、パッケージを刷新。「きれいな緑色を見せる」という新しい発信が伸長につながっている。
「きれいな緑色」一点突破のパッケージ
伊右衛門の最も重要な価値は「急須で入れたようなお茶」の味わいを楽しんでもらうことだ。しかし、競合商品も「急須のお茶」を打ち出していることから、近年は差別化のために、他の伝えたい要素を加えてパッケージなどを作っていた。
例えば、19年のリニューアルでは「抹茶の甘み」を大きく打ち出したほか、情緒的なCMやパッケージによって「ほっとする」という価値を訴求。しかし、消費者には伝わらず、不振から脱することはできなかった。
そこでもう一度、“急須で入れたてのようなお茶”という「真ん中の価値」(多田氏)を見直して、中味を開発。一番茶の比率を最大にして香りとうまみを引き出したほか、焙煎技術や抽出方法も改良した。その過程で、徐々に重視するようになっていったのが「緑色」だ。
ヒントになったのは、19年に「天然水」ブランドから発売した新商品「天然水 GREEN TEA」。ヒット商品にはならなかったものの、発売時にはきれいな緑の液色が注目された。「これまでの緑茶飲料は茶色っぽい色が多かった。きれいな色なら見ただけで変化が分かる」(同)。伊右衛門でも、味や香りを追求する中で、液色を鮮やかな緑に近づける技術も確立できたことから、「入れたてのような緑色」の“一点突破”で打ち出すことを決めた。
きれいな緑の液色を効果的に見せるためには、これまでのパッケージから大きく変える必要がある。従来は緑色のラベルがペットボトル全体を覆っていて、中味はほとんど見えなかった。
そこで、ボトル全体を覆う形式のシュリンクラベルを、長さが短くてはがしやすいロールラベルに変更した。ラベルの面積を半分に減らし、中味がよく見えるようにしている。また、ボトル自体の形も変更。伊右衛門の特徴だった「竹筒」の形のボトルをやめた。
「伊右衛門のアイコンだった竹筒ボトルをやめていいか、という判断は難しかった」と多田氏は振り返る。ペットボトルの形状を変えるためには、工場の金型などの設備を全て入れ替えなくてはならない。大きな設備投資になるため、一度変えると簡単には元に戻せない。これまでのイメージを捨てる大きな決断だが、「初代の伊右衛門を作った責任者やデザイナーなど、みんなが後押ししてくれた」(多田氏)。04年当時、“新しさ”の象徴だった竹筒ボトルも、すでに誕生して15年以上経過している。思い切った変化が求められていた。
そこで、従来とは全く異なる「お茶の色がきれいに見えること」を重視した考え方で、一からパッケージを作っていった。ボトルの形状だけでなく、ラベルの色によっても液色の見え方は異なる。棚に並んだ状態を想定し、光の当たり方などを研究した。「キャップとラベルで挟まれた部分が、最もきれいに見えるように、ラベルの色やボトルの形状を決めた」(同)という。
関連記事
- ミニストップ「おにぎり100円」がもたらした“意外な変化”
ミニストップが7月に始めた「おにぎり100円」施策。主力商品のおにぎりを最大30円値下げした。開始から3カ月がたち、効果はどれほど出ているのか。また、“100円”という値決めは成功なのか。狙いや現状について聞くと、意外な変化も見えてきた。 - 低迷していた「カルピス」が、右肩上がりの再成長を遂げた理由
2019年に100周年を迎える「カルピス」がいま、再び成長している。販売量は横ばいで推移していたのに、10年ほど前から右肩上がりに伸びているのだ。変わらない味のロングセラーブランドが再成長できたのはなぜだろうか。 - 三ツ矢サイダー、コロナ禍の5月に「販売1割増」の背景
アサヒ飲料のロングセラー「三ツ矢サイダー」が好調だ。5月のブランド全体の販売数量は前年同月比12%増。その背景には、ブランド強化のための「新商品」「リニューアル」の取り組みがある。ロングセラーブランドならではの戦略とは? - 2年目も売れ続ける「本麒麟」 ロングヒットの鍵を握る“2つの数字”とは
キリンビール「本麒麟」が2年目も売れ続けている。多くの失敗を経て“味”を追求したことが奏功。初年度の7割増で推移している。第3のビールの競争が激化する中でヒットした理由と今後の成長の鍵は? そこには、同社が重視する“2つの数字”がある。 - なぜBOSSに「紅茶」なのか コーヒーの枠を超えた“働く人のニーズ”
サントリーのペットボトルコーヒー「クラフトボス」シリーズに「無糖紅茶」が加わる。なぜコーヒー以外の飲料をBOSSブランドで出すのか。そこには、クラフトボスの“強み”と「働く人の相棒」というブランドコンセプトを生かした試みがあった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.