モノプソニーだけじゃない 「日本人の給料安すぎ問題」に潜むこれだけの原因:働き方の「今」を知る(4/4 ページ)
デービッド・アトキンソン氏の記事によって話題になった「日本人の給料安すぎ問題」。氏は原因を「モノプソニー」でひもといたが、給料が安すぎる原因は他にもさまざまある。前後編2回に分けて、ブラック企業に詳しい新田龍氏が解説する。
経営者の能力不足
これはもう単純な話で、もうからないから給与アップできない、ということだ。付加価値が高く、世界中からニーズを獲得する魅力的な製品、サービスを生み出し、適正な利潤を得られれば、十分な給料が支払えるはずである。
例えば、世界経済において圧倒的な覇権を握っている「GAFA」と呼ばれる各社は、自ら市場を創出したり、独自の戦略によって獲得したニーズをビジネスにつなげたりすることで付加価値と利益を生み出している。実際、Googleはインターネット草創期に「検索」という入口を抑え、検索結果の順位に意味を持たせることによって効果的な広告を実現したし、Amazonはロングテール戦略によって莫大な商品数を売上に変えた。
FacebookはSNSとしては後発ながら、コミュニケーションツールとして単にプロフィール以上のものをシェアできる機能を早い段階で追加したことで成功し、それによって獲得した個人情報を基に、今や米国ネット広告市場の2割のシェアを得ている(ちなみに1位はGoogleの31%。この2社だけで市場の半分以上を寡占していることになる)。そしてAppleは、スマートフォンを単なる通信機器から高級ブランドに変化させ、中国製でありながら圧倒的な高価格帯で販売。世界市場におけるスマホの出荷台数シェアは10%強にすぎないにもかかわらず、利益額では約7割近くを稼ぎ出しているのだ。
わが国では国内市場だけを相手にしていてもビジネスとしては成立するが、最初からグローバル市場を狙った付加価値の高い商品やサービスを開発すれば、世界的なヒットを創り出せ、相応の利益を得ることもできるに違いない。例えば、18年末に発売されたソニーの最高級シリーズのオーディオプレーヤーは税込価格で100万円を超えるが、ある販売店では年間の売上ランキング(金額ベース)でトップ3に入るほどの売り上げを記録したそうだ。同製品に限らず、高価格帯商品の売れ行きは非常に良いという。また、JR九州の高級クルーズトレイン「ななつ星in九州」は運行開始から7年目となるが依然として人気は衰えず、現在3泊4日の旅行代金が1人当たり数十万円と極めて高価でありながら、予約倍率は5倍以上というニュースが出たことも記憶に新しい。
まだまだある、日本人の給料安すぎ問題の原因
さて、ここまでは日本人の給料安すぎ問題の原因として、社会保障や経営者といった問題を挙げてきた。これだけでも解決するには骨が折れそうな諸問題だが、まだまだ日本人の給料安すぎ問題には原因がある。
次回は、本稿で挙げた以外の原因を紹介する。具体的には、働く人を守るはずの規制が、かえって働く人の首を絞めてしまっているという構図を明らかにし、コロナ禍によってようやく進みつつある「日本的な働き方」をさらに前へ推し進めるための一助としてほしい。
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