働き手を守るはずが、「給料安すぎ問題」を助長する皮肉 過度な正社員保護は、本当に必要なのか?:働き方の「今」を知る(3/3 ページ)
デービッド・アトキンソン氏の記事によって話題になった「日本人の給料安すぎ問題」。氏は原因を「モノプソニー」でひもといたが、給料が安すぎる原因は他にもさまざまある。後編の今回では、正社員保護が逆に給料安すぎ問題の原因となってしまうことを解説する。
仮に、会社が問題社員をクビにしたとしよう。当の問題社員が「クビは不本意だ」と裁判に持ち込む場合は、「この解雇は無効である」と主張して会社と争うことになる。その結果、社員側が勝って「解雇は無効」との判決が出たすれば、その時点まで当該社員との雇用契約はずっと残っていたことになり、会社は解雇してから、解雇無効の判決が出るまでの全ての賃金を払い、しかも問題社員は会社に職場復帰(復職)することになるのだ。
実際の裁判では最終的に金銭で和解をするケースが多いのだが、クビにされた側はいったん「会社への復職を求めるフリ」をしないと和解金額が大幅に下がってしまうため、「本音では復職する気が全くなくとも、復職を希望しないといけない」という茶番劇が必要なのだ。これではお互い、お金と時間の大いなるムダであろう。
このような慣行や制度が原因で、労使ともにストレスになるような状況はすぐにでも改善したいところである。解雇や賃下げなど、一般的に「不利益変更」とされる経営判断をスムーズに実行できるように法制や規制を緩和していくことで、「正社員の権利を保護するためにリスクを織り込み過ぎ、かえって賃上げの阻害要因になっている」事態が少しでも正常になってほしいものだ。
変わる機運は高まっている
さて、今回は前後編にわたって給料が上がらない要因を、筆者の観点から5点挙げてみた。制度面の不具合については粘り強く国に働きかけて続けるしかないが、各企業で対策を打てるものについては経営者自身が創造的な発想によって解決していくしかない。
「給料が安い」=「従業員を安く使える」と考えて喜んでいるような経営者は、まわりまわって自分の首を絞めていることと同じである。付加価値を高め、生産性を上げ、従業員にも報いることによって日本経済にも好影響となり、結局は経営者のためにもなるということなのだ。コロナ禍を機に、「変わる機運」が高まっている今こそ、できるところから着手していきたいものである。
関連記事
- モノプソニーだけじゃない 「日本人の給料安すぎ問題」に潜むこれだけの原因
デービッド・アトキンソン氏の記事によって話題になった「日本人の給料安すぎ問題」。氏は原因を「モノプソニー」でひもといたが、給料が安すぎる原因は他にもさまざまある。前後編2回に分けて、ブラック企業に詳しい新田龍氏が解説する。 - テレワークで剥がれた“化けの皮” 日本企業は過大な「ツケ」を払うときが来た
テレワークで表面化した、マネジメント、紙とハンコ、コミュニケーションなどに関するさまざまな課題。しかしそれは、果たしてテレワークだけが悪いのか? 筆者は日本企業がなおざりにしてきた「ツケ」が顕在化しただけだと喝破する。 - 「パワハラ防止法の施行で『陰湿なパワハラ』が増える」という批判は正しいのか
6月1日、いわゆるパワハラ防止法が施行された。これにより、大企業にはさまざまな対策が義務付けられるようになった(中小企業は22年4月から)。これまで統一されていなかったパワハラの定義が示される一方で「陰湿なパワハラ」が増えるのでは、といった懸念もある。ブラック企業に詳しい新田龍氏の見解は? - 話題の「社員PC監視ツール」がテレワークを骨抜きにしてしまう、根本的理由
テレワークで従業員がサボらず仕事しているかを“監視”するシステムが話題になった。テレワークは本来「成果」を出すためなら「働く場所」を問わない制度のはず。こうしたシステムが出てくれば、テレワークが骨抜きになってしまい、生産性を高める「成果主義」が定着しない、と新田龍氏は指摘する。 - ドコモ代理店「クソ野郎」騒動に潜む、日本からブラック企業がなくならないそもそもの理由
NTTドコモ代理店で起こった「クソ野郎」問題が新年早々大きな問題になった。代理店運営の兼松コミュニケーションズだけでなく、NTTドコモも謝罪文を出す事態に。問題の真相はどこにあるのか。労働問題に詳しい新田龍氏はに“ブラック乞客”の存在を指摘する。 - 「脱ブラック」進むワタミ、コロナで大打撃ながらも従業員に“太っ腹”対応
新型コロナの影響が深刻だった居酒屋業界。そんな中、「脱ブラック」が進むワタミでは従業員に手厚い対応を見せた。黒字予想から一転、20年3月期は60億円超の赤字となりながらも矢継ぎ早に講じた対応は、どういったものだったのか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.