働き手を守るはずが、「給料安すぎ問題」を助長する皮肉 過度な正社員保護は、本当に必要なのか?:働き方の「今」を知る(2/3 ページ)
デービッド・アトキンソン氏の記事によって話題になった「日本人の給料安すぎ問題」。氏は原因を「モノプソニー」でひもといたが、給料が安すぎる原因は他にもさまざまある。後編の今回では、正社員保護が逆に給料安すぎ問題の原因となってしまうことを解説する。
バブル期の苦い教訓
バブル経済崩壊後の不況期では、バブル期に上げ過ぎた給与水準が経営を圧迫し、労働分配率も75%程度まで上昇するなど日本企業は危機的状況にも陥った。それに懲りた企業では、「人手不足でも多少業績が良くとも、次の不況に備えてできるだけ給与水準は抑えておく」ことが教訓となっているのだ。従って、超長期の雇用が前提で、かつ給与が景気や業績に応じて機動的に下げられない以上、給与アップにはかなり慎重にならざるを得ない、という悪循環が起きてしまうわけである。
一般的に、働き手は月給(基本給)が下がることには抵抗感が大きいが、ボーナスの増減については比較的寛容である。従って、景気動向や人手の過不足に合わせて柔軟にボーナスを増減できるような制度設計や就業規則にしておくなどの対応も必要であろう。
「お前はクビだ!」は当然NG
映画やマンガでは、ヘマをした部下に対して上司や経営者が「お前はクビだ!」などと宣告する場面をよく見かける。しかし、これができるのはあくまでフィクションの世界や、日本とは法律が異なる海外の話。日本ではそう簡単に、従業員のクビを切ることはできない。現実の世界でこれを本当にやってしまったり、もし冗談だとしても、言われた従業員が真に受けてしまったりしたら大変なトラブルになるだろう。日本では、労働基準法や労働契約法をはじめとした法律と、先述の判例によって、労働者の雇用は手厚く守られているからだ。
例えばアメリカの場合、社員は日本と同じ無期雇用でありながら、「At willの原則」があるため、成果を出せなかったり、素行が悪かったりする従業員を企業は自由にクビにできる。一方日本では解雇について大変厳しく、「人員整理の必要性」「解雇回避努力義務の履行」「被解雇者選定の合理性」「手続の妥当性」という4つの要件を満たし、「客観的に合理的」と認められない限り実質的に解雇不可である。
正社員の解雇が難しいとなると、その社員に何か問題があっても給料を払って雇い続けなくてはならず、しかしリスクヘッジのため高い給料は払えない。またクビにできないからこそ「間違いない人材だけを厳選して採用したい!」という考えになるため、正社員の採用ハードルも上がる。実際、日本を代表する大手企業では新卒採用中心で、書類選考⇒筆記試験⇒グループディスカッション⇒グループ面接⇒個別面接――と選考ステップは何段階もこなさなければいけないケースがあるし、中途で入社するチャンスもこれまではなかなか存在しなかった。
正社員の採用基準が高い以上再就職の難度も増し、再就職が難しければ、たとえ薄給のブラック企業でもクビにならないようしがみつこうと努力してしまう。このように、全てが悪循環になってしまうのだ。その結果、クビにしやすく、給料も安くて済む非正規雇用(アルバイト、パート、派遣、契約、業務委託など)へと雇用が流れてしまうのである。
また、解雇を金銭的に解決(一定のお金を払うことで円満解雇に至ること)できればまだ話が早いのだが、現行ではそれも不可能である。なぜなら日本の労働法制において、そもそも解雇の金銭解決制度が存在しないからだ。
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