単なる“ワーク”と化す? 「ワーケーション」普及が幻想でしかない理由:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
旅先で仕事をするワーケーションについて、政府が普及に取り組む考えを示した。しかし、休暇中でも休まらないという問題があるほか、対応できるのはごく一部の企業。テレワークさえできていない企業も多い。IT環境整備をするなら、日常の生活圏を優先させるべきだ。
リモートワークさえ、すでにやめている
東京商工リサーチが7月上旬までに行ったアンケート調査では、感染防止で導入が広がった在宅勤務やリモートワークを「現在、実施している」と31.0%が回答した一方、「実施したが、現在は取りやめた」企業が26.7%もあることが分かりました。
Googleがスマートフォン利用者の位置情報を分析した結果でも、4月の出勤者は感染拡大前(1〜2月)に比べて21.9%減少したものの、緊急事態宣言解除後の6月には12.9%減にまで戻っていることが判明しています。
一方、世界に目を向けると、英国の出勤者は感染拡大前に比べ44%減、ドイツやフィンランドでも2〜3割減少していました(Google調べ)。
もっとも、日本でも米国のFacebookやGoogleのように、テレワークを標準化できる企業も増えつつあります。しかし、コロナの感染拡大の防止策や、さまざまな働き方という視点にたてば、まずはリゾート地よりも日常の生活圏のWi-Fi整備を徹底させた方がいいのです。
だいたい日本がいかに「IT後進国」であるかは、コロナによって白日の下にさらされてしまったわけで……。持続化給付金や特別定額給付金の支給だけでなく、感染者数の把握や子供たちのリモート授業にも大きな影響が出てしまいました。
自治体、学校、職場、住宅の全てで、デジタルに対応できるハード面の強化を早急に進める方が、プライオリティが高いのではないでしょうか。
……悲しいのは、そういったリアルが、「コロナの影響を受けてない」層の人たちには伝わらないってこと。想像力の欠如が、日本社会の最大の問題かもしれません。
そして今後、今はまだ「コロナの影響を受けてない」人たちであっても、下に落ちるリスクが高まっていきます。ごく一部の富裕層を除いて、中間層の没落が始まるのです。
なんだかあまりにもトンチンカンな政策ばかりが発表されるので、ワーケーションから中間層の没落まで、つい話が広がってしまいましたが、それくらいコロナの問題は長引くでしょうし、お金がかかる。長く付き合わなくてはならない問題です。
限りあるお金の使い道の優先順位をきちんと考えないことには、そのしわ寄せが弱い立場の人に向かっていってしまうという不条理が山積していくのです。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)
お知らせ
新刊『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)が発売になりました!
失業、貧困、孤立――。新型コロナウイルスによって社会に出てきた問題は、日本社会にあった“ひずみ”が噴出したにすぎません。
この国の社会のベースは1970年代のまま。40年間で「家族のカタチ」「雇用のカタチ」「人口構成のカタチ」は大きく変化しているのに、それを無視した「昭和おじさん社会」が続いていることが、ひずみを生み続けています。
コロナ禍を経て、昭和モデルで動いてきた社会はどうなってしまうのか――。
「日経ビジネス電子版」の長期連載を大幅に加筆し、新書化しました。
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