「5000円分還元」にとどまらないマイナポイント事業の効果と、真の狙いとは?:小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)
6月に終了したキャッシュレス還元に続く、マイナポイント事業。登録・利用で1人につき5000円分のポイント還元を受けられるが、それ以上に得られるものがあると筆者は解説する。キャッシュレス政策が持つ真の狙いに迫る。
マイナンバーは庶民の味方か?
考えてみれば分かるが、税務署が既に“ガラス張り”とも言われている給与所得者をこれ以上に監視してもあまり意味はない。そもそも、そんな苦労をしなくてもガラス張りの庶民からは税率を上げさえすれば徴税が可能なのだ。国が監視の目を強めようとしているのは、非給与所得者であり、彼らに適正に納税してもらえるよう、監視機能を強化していると考える方が妥当だろう。
日本では給与所得者が納税者の大半を占めており、さらに言うと、就業者数約6700万人のうち4500万人ほどが確定申告をしないで、源泉所得税を徴収されるのである。サラリーマンは、「節税」などというテクニックを使う余地もほとんどないので、自分の税金に関して、あまり関心がない人も多い。ただ、現実がどうかは知らないが、「クロヨン」だの「トーゴーサン」(「9:6:4」や「10:5:3」、順に給与所得者、自営業者、農林水産業者の所得把握率の例え)といった言葉があるように、給与所得者以外に関しては、所得の正確な把握はできていないといわれてきた。こうした状況を、マイナンバーとリンクしたキャッシュレス決済のビッグデータが変える可能性があるのだ。
今後キャッシュレスが主たる決済手段となれば、個人資金の流れはビッグデータとして蓄積され、必要とあればさかのぼって確認することも可能になる。全てのキャッシュレス決済データを個人名とひも付けることも理論的には可能である(今回のキャンペーンでは1社のみだが)。こうなると、ルール通りに納税していない人に関しての税務調査は、簡単に検証することが可能になる。租税回避行為はかなりやりづらくなり、所得捕捉のアンバランスは大幅に解消される可能性があるといえるだろう。こうした方向性は、国民の大半を占める源泉所得税を否応なしに取られている給与所得者にとっては、実は歓迎すべき話なのである。
コロナ禍によって、政府はさまざまな公的支援策を打ち出しており、巨額な支出が先行する。コロナ禍終息の後に、このツケは税金となって国民が皆で負担しなければならないのは間違いない。もともと大赤字だった日本の財政がこれだけの大盤振る舞いをすれば、相当な増税を覚悟しなければならないことは、誰の目にも明らかだ。その際、個々の実入りに応じて、公正で応分な負担をしていくためにも、所得把握の正確性の向上は絶対に必要となるだろう。マイナポイントのキャンペーンは、5000円+αがもらえるかどうかという小さな問題ではなく、迫りくる不公平な重税回避のためにも庶民としては積極的に環境づくりに協力した方がよさそうなのである。
関連記事
- コロナ禍は、地権者だけが得をする「不労所得スパイラル」を食い止められるか
コロナで大打撃を受けている小売り・飲食業各社。その副次的影響として、今後は都市圏を中心とした家賃相場の値崩れもあり得る。筆者は、大家ではなく消費者本位のビジネスが加速するチャンスだと主張する。 - “密”になるほどの人気で売り上げ絶好調 「ホームセンター」はコロナを機に復権できるか?
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、多くの業界に出された休業要請から辛うじて外れたホームセンター。緊急事態宣言下でも“密”となるほど多くの人が訪れ、多くの企業が売り上げを伸ばしている。今回のコロナ禍を機に存在感を発揮できるか。 - 7年ぶりに新作の半沢直樹 1月放送の「エピソードゼロ」からメガバンクの生存戦略を読み解く
7年ぶりに続編が放映されるドラマ「半沢直樹」。当時から今までで、銀行界はどう変わった? メガバンクの生存戦略と作品を合わせて読み解く。 - 都銀再編時に「ごみ箱」構想を持っていた金融庁と地銀救済で手を組むSBIホールディングスは天使か、悪魔か?
SBIホールディングスが仕掛ける「地銀救済」。陰には金融庁の影響も見え隠れするが、「証券界の暴れん坊」と目されるSBIと金融庁、それぞれの思惑とは? 過去、銀行勤務時代に大蔵省との折衝を担当していた筆者によると、90年代の都銀再編時に官僚は「ごみ箱」構想を持っていたという。 - 23年ぶり社長交代のイオンの過去と未来 衰退したダイエー、勢いを増すAmazonから分析する
23年ぶりの社長交代を発表したイオン。バブル崩壊、スーパー業界の再編の中、ダイエーが衰退した一方で同社はなぜ成長できたのか。膨大なデータ基盤で“巨大なよろず屋”はデジタル時代を勝ち抜けるか。 - 話題の「社員PC監視ツール」がテレワークを骨抜きにしてしまう、根本的理由
テレワークで従業員がサボらず仕事しているかを“監視”するシステムが話題になった。テレワークは本来「成果」を出すためなら「働く場所」を問わない制度のはず。こうしたシステムが出てくれば、テレワークが骨抜きになってしまい、生産性を高める「成果主義」が定着しない、と新田龍氏は指摘する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.