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ブロックチェーンを活かす法体系とは?ブロックチェーンは「デジタル公証役場」(2/5 ページ)

ブロックチェーンを使いこなすことを考えたとき、課題は技術面だけではなく、法律面にある。ブロックチェーンを公証役場的な保証の仕組みをデジタルに構築できるものと捉えた場合、現在の法体系にはどんな課題があるのか。JBA(日本ブロックチェーン協会)理事の福島良典氏(LayerX CEO)による寄稿。

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デジタル公証役場としてのブロックチェーン

 最近はあえてブロックチェーンというのは「デジタル公証役場」なんです。と話しています。突然どうした? と思われるかもしれませんので、少し解説します。


デジタル公証役場としてのブロックチェーン

 そもそも公証役場とは何でしょう? そして今の世の中では、ある主体同士でなされる「約束」をどういう仕組みで「担保・執行」されるようにしているのでしょう?

 抽象的だと分かりにくいので具体例を挙げてみます。例えば「私がAさんに100万円貸す。また金利はN%であり、元本の返済はM年後で」と口頭で話したとします。これでAさんがイエスといえば「契約」は成立します。口頭でも契約は成立するからです。一方ほとんどの人はこれを良しとしません。一体誰がそこに「約束」があったことを証明できるのか? と思うからです。

 なので実際は、紙に合意内容を書き起こし、そこにお互いの本人認証としての捺印(なついん)(もしくはサイン)をすることで、これは「元本性のある証書」になります。これをお互い持ち合うことで契約とするケースが多いと思います。

 これをさらに「執行」(つまり相手が約束を履行しなかったときに権利を行使すること)するために、もし「約束」に違いがあれば「元本性のある証書」を証拠として争います。そしてややこしいことにこの「約束」は転々流通するケースがあります(株式を他に売ってしまった、債権を第三者に買い取ってもらったetc)。

こういった際、第三者がある権利者であることを確定させないと安心して買い取れません。こうした「誰が見てもその人が約束の当事者であり権利者である」ことを証明するために「確定日付(=timestamp)」を公証役場でとります。そして、それが証拠となり「第三者対抗要件」として争う種になります。

 つまり公証役場がはたしている役割は「確かにその約束が、この日付で行われた」ことを確定することです。こうすることで権利が安定し、権利者を守る仕組みを整えているのです(そしてこれがあるので権利を流通させたり、執行させたりすることができます)。

 ここでポイントは「中立の第三者」が「物理的に立ち会う」ことで「確かにその約束が、この日付で行われた」ことを保証するように法体系もできているということです。

 そしてブロックチェーンは、この「公証役場」的な保証の仕組みを、完全にデジタルで(物理的な立ち会いをなしに)構築できるというのが特徴です。またその証拠がデータとして残るために、そのデータ遷移のロジックを記述できる「スマートコントラクト」の存在で、単なる「証拠」基盤を超えた、「執行」基盤になっているというところがポイントかと思っています。

 公証役場のアナロジーでとらえると、紙は「データの遷移状態を表したもの」です。難しく書いてますが、例えば先程の例だと「私からAさんに100万円というデータを移す。またその対価として金利としてN%を支払う。M年後に元本を返済するというデータ」です。物理世界ではこれが紙に書かれてますが、デジタル上ではただのデータです。このデータに電子印鑑である電子署名で捺印します。これでその本人がなりすまされずに捺印したものという証拠がデジタル上で作れます。ブロックチェーンではこれを「トランザクション」と呼んでいます。このトランザクションを「デジタル公証役場」であるブロックチェーンに投げ込むと「確かにその約束が、この日付で行われた」ということを技術的に保証してくれます。

 なのでデジタル上の「約束」をめぐる揉(も)め事に対する証拠をブロックチェーン上に残すことができる。これをもとに争ったり、執行をしたりすることができる。こういったことが非対面で第三者の立会いなしに保証できるのがブロックチェーンです。これがあえてオーバーエンジニアリングをしてまで得たい性質であるのです。

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