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コロナ禍で製薬業界に訪れた転換点 ヘルステック企業が実現を目指す「バーチャル治験」とは?「近づけない、集めない」時代を生き抜く、企業の知恵(1/5 ページ)

新型コロナウイルスの影響によって、医療や医薬品業界のビジネスモデルが大きく変わろうとしている。病院などに足を運ばなくても受けられる「バーチャル治験」の実現に向けて期待が高まった。

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「近づけない、集めない」時代を生き抜く、企業の知恵:

 「人が集まる」「人に直接会う」ことで稼いできた企業が、新型コロナを契機に自社戦略の見直しを迫られている。どのようにして「脱・3密」や「非接触」を実現し、ビジネスチャンスを生み出そうとしているのか。

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 新型コロナウイルスの影響によって、医療や医薬品業界のビジネスモデルが大きく変わろうとしている。医療の面では4月以降、院内感染などを防止するため、電話やスマートフォンを利用したオンライン診療に関する国の規制が時限的・特例的に解除された。

 一方、医薬品の面では、いまだに規制に縛られているものの、コロナ禍の影響によって、病院などに足を運ばなくても受けられる「バーチャル治験」の実現に向けて期待が高まっている。治験とは、薬を開発する際に必要な臨床試験を指す。特に、がんや、患者数が少ない希少疾患では、治療の選択肢としても治験に期待する患者は少なくない。

 しかし、治験の情報はまだまだ一般的には知られていないのが実情だ。加えてコロナ禍によって、今まで病院に通うことができていた人が通えなくなってしまったために治験がストップし、新しい薬の開発も滞っている。

 この状況を変えようと、在宅でも治験ができる「バーチャル治験」の実現を目指して研究を進めている企業がある。ITなどのテクノロジーをヘルスケア分野に活用する「ヘルステック事業」に取り組む3Hクリニカルトライアル(東京都豊島区)だ。同社は治験・臨床試験事業では業界をリードしている。コロナによって「非接触」での対応が求められる中、どのようなビジョンを描いているのか。滝澤宏隆社長に、治験の現状と「バーチャル治験」実現への課題を聞いた。


滝澤宏隆(たきざわ ひろたか)米国カルフォルニア州立大学にて学位を取得。損害保険会社、ゲーム開発会社のシステム開発、Webサイト開発を担当。IT によるヘルスケアイノベーションを目指し、2005年にクリニカル・トライアルの立ち上げに参画し、業界に先駆けて被験者募集システムを構築。09年に代表取締役に就任

コロナ禍で新薬の開発に遅れ

 「新型コロナの感染拡大により、緊急事態宣言が出された4月と5月は多くの治験が止まりました。日本では治験を受ける患者さんは、病院に足を運ぶ必要があります。しかし、医療機関は(施設に)来てくださいとも言えないし、コロナの対応でそれどころではありません。その結果、多くの治験が止まり、薬の開発が止まりました。

 一方で海外では、在宅でも治験を受けられるバーチャル治験の取り組みが進んでいます。欧米に比べると日本では治験が進みにくいという課題があり、がんや希少疾患の患者さんが新たな治療をする機会が失われています。コロナの影響がいつまで続くか分からない中で、日本の医薬品開発を取り巻く環境は転換点を迎えています」

 コロナ禍での治験の現状について危機感を語る滝澤社長は、3Hクリニカルトライアルを設立した2005年から、医療とテクノロジーを融合した「ヘルステック」による治験の普及に取り組んでいる。

 治験とは、新薬を開発する際に、実際に患者に投与して安全性や効果を検証する臨床試験だ。治験を経て国に承認されれば、製薬会社は新たな薬として販売できる。しかし、滝澤社長によると、日本は欧米に比べて新薬の研究が進まない土壌があるという。

 「欧米との保険制度の違いに加え、日本では治験についてあまり知られていないことと、人体実験のイメージが強くて怪しいと思われているのか、治験に参加してもらえる人がなかなか見つからないという課題があります。そのため、海外よりも新薬の研究が進まないのです」

 一方で、新型コロナの感染が拡大したことによって、治験の認知度が進む可能性もある、と滝澤社長は期待する。その理由はワクチンの開発への関心が高まっているからだ。

 「新型コロナに関連する治験は、現在世界で300件ほど進められているとみられています。治験に参加すれば、ワクチンを早期に試すことができ、費用も製薬会社が負担してくれるメリットがあります。当社は製薬会社や病院が進めている治験について情報発信すると同時に、コロナ禍での感染対策にもなるオンラインでのバーチャル治験が日本でも実現するように、準備を進めています」


バーシャル試験のモノと情報の流れ(以下資料は3Hクリニカルトライアル提供)
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