最近よく聞く「ジョブ型雇用」の掛け声がどこか空疎に思える、これだけの理由:働き方の「今」を知る(2/5 ページ)
注目が集まるジョブ型雇用。やや言葉だけが独り歩きしている感もあるが、大手でも導入が進み「ジョブディスクリプション」の整備も進む。しかし、筆者の新田氏はジョブディスクリプションの整備だけでジョブ型の定着には不十分だと指摘する。
ジョブ型雇用の世界では会社に何年勤めようが、自動的に上位職に昇進することはなく、基本的には同レベルの現場実務を続けていく。管理職など別の職域に挑戦したり給与アップを実現したりしたい場合は、そういったポジションの欠員を待つか積極的に探し出し、自ら応募して勝ち取らなくてはいけないのだ。
また、ジョブ型雇用の世界ではポジションに応じたスキルや経験が会社の枠組みを超えて規定されているため、スキルセットが判断しやすく、比較的容易に転職ができる。加えて「社内政治的」な要因もあまりなく、脱落や劣後といった心配もなく、休暇取得や育休取得に抵抗なく、どんどん休める。当然むちゃな長時間労働をする理由もないため、ワーク・ライフ・バランスが充実する、といったメリットがある。
一方で、組織においてその仕事の必要がなくなったり、採用した人がJDや契約に応じた働きができなくなったりすれば、企業は整理解雇をすることができる。海外では「簡単にクビになる」といわれるのはそのためだ。
一方的な転勤・転籍・出向はレアケース
会社側が一方的に転勤や転籍、出向などを命じることは、日本以外の諸外国ならパワハラ扱いになるくらいの事態なのだが、日本の場合は当然のこととして認識されている。なぜなら日本は「メンバーシップ型雇用」であり、「雇用の安定と引き換えに、職務内容を明確にしない無制限の仕事対応、転勤・転籍・出向といった条件を暗黙のうちに受け容れている」からである。
このように、個々人の業務範囲やミッションが明確で、成果が出なければクビになる、という背景が存在する諸外国と、個人の業務範囲は柔軟に変化し、成果を出さなくてもクビになりにくい日本では、そもそもの土壌も、文化的背景もまったく異なるのだ。だからこそ、ジョブ型導入の報道で「職務記述書作成に着手」といったフレーズが新鮮味を帯びて出てくるのである。職務記述書に従って仕事をするのは日本以外のジョブ型の国では当たり前であり、逆に「日本では今までJDがなかったのか!?」と驚かれるくらいの話なのだ。
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