デジタルで「4P」はどう変わる 価格の流動化と“新通貨”登場で新たに脚光を浴びる2つのビジネスモデルとは?:「新時代」のマーケティング教室(1/4 ページ)
マーケティング理論として知られる「マーケティング・ミックス」(4P)。デジタル時代にどう変わっている? 東京都立大学経済経営学部の水越康介教授が解説する。
デジタル時代のマーケティング・ミックス
製品政策、価格政策、流通政策、そしてプロモーション政策の4つを、対象となる顧客に合わせて組み合わせるフレームワークをマーケティング・ミックス(4P)と呼ぶ。マーケティング・ミックスは、各要素の組み合わせの理論であるとともに、それぞれの要素が個別の研究領域と結び付きながら独自に発展を遂げてきた。
デジタル時代におけるマーケティングを考えるときも、マーケティング・ミックスは役に立つ。これまでも紹介したように、デジタル時代におけるマーケティングは、「顧客の参加」を大きな特徴とする。マーケティング4.0では、製品政策は共創政策へ、価格政策は通貨政策へ、流通政策は共同活性化政策へ、そしてプロモーション政策はコミュニケーション政策へと形を変える。前回の共創政策に引き続き、今回は通貨政策を考えよう。
通貨政策、2つの特徴
従来のマーケティングにおける価格政策では、企業主導による価格の決定が重要な問題だった。一方、昨今のデジタル化により、「価格(Price)」政策から「通貨(Currency)」政策へのアップデートが起こりつつある。通貨政策により、価格の決定を柔軟にし、より顧客の需要に合わせたWTP(Willing to Pay)の支払いも可能になってきている。
価格政策がアップデートされた通貨政策という言葉は、為替レートを連想させる比喩としての意味と、近年日本でも急速に利用が広まっている電子通貨や仮想通貨の2つを想起させる。一般的には前者の意味合いがより強いが、それぞれ見てみよう。
まず、為替レートについては、日々刻々と変化する点に特徴がある。2国間(まさに、企業と顧客)の関係にとどまらず、例えば米国と中国の関係悪化が懸念されれば、即座にドルが安くなるとともに円が買われることになる。これをマーケティングに当てはめると、ネットオークションや、あるいはタクシーのシェアリングサービスであるUberのサージプライシングなどが典型的である。たくさんの人が欲すれば価格はすぐに上がり、逆にいなければすぐに下がる、ということだ。
通貨政策がもう一つ意味するのはSuicaやPayPay、あるいはビットコインのような新しい形の「通貨そのもの」の登場である。これらは少額決済やグローバルな取引において利便性を発揮する。さらに今では、新型コロナ流行予防として、直接触る必要がないという電子の性格そのものも新たな利便性として期待されるようになっている。
企業のマーケティング政策において、支払い方法をどのように構築するのかは実は隠れた課題である。例えば、現金よりもクレジットカードの方が支払う際の心理的な負担感は軽いだろう。価格をいくらにするかだけではなく、支払い方法にまで目を向け、心理的コストを引き下げることには意味があるということだ。
関連記事
- デジタル時代、顧客の参加で変わる「4P」 ユーザーのハッキングまでも認める「共創」とは?
マーケティング理論として知られる「マーケティング・ミックス」(4P)。デジタル時代にどう変わっている? 東京都立大学経済経営学部の水越康介教授が解説する。 - 存在感を増す「応援する消費」から考える、マーケティングの意義
東京都立大学で教授を務め、マーケティングに詳しい水越康介氏の新連載。今回は新型コロナで注目を集めている「応援消費」について解説するとともに、いま、マーケティングすることの意義について考える。 - 「売れなかった」ハムサンド、カメラ50台で真相解明 高輪GW駅「無人決済コンビニ」の実力
高輪ゲートウェイ駅にオープンした無人コンビニ店舗「TOUCH TO GO」。無人化によるコスト削減に注目が集まる一方、データ活用という点でも大きな可能性を秘めている。約50台のカメラ映像を分析し「POS端末では分からなかったこと」が見えてきた。 - マーケティング1.0は、もう通用しないのか? 注意すべきナンバリングの「罠」
今やマーケティングは「4.0」の時代に。デジタルが大きな力を持つ今、マーケティングに必要なものとは? 東京都立大学で教授を務め、マーケティングに詳しい水越康介氏が1.0の時代から振り返り、解説する。 - サラダマックが大失敗した訳――「データの奇麗なウソ」をマーケッターはなぜ妄信するのか
かつてマクドナルドのサラダマックは大失敗。一見、消費者調査を踏まえた商品だった。「データの奇麗事」に騙されないコツを筆者が解説。 - 初週売り上げ、過去最高! 異例のロングスカートが生まれたワケ ヤフーと三越伊勢丹が見抜いた「隠れた欲求」
蓄えたデータを外部の企業にも開放し始めたヤフー。データを分析することで消費者の「隠れた欲求」を引き出し、商品開発を支援している。三越伊勢丹と一緒に生み出したロングスカートは、大ヒットを記録したという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.