画面上の「上座」に悩む前に “無言”も武器になる、コミュニケーションの本質:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
Web会議システムの「Zoom」で参加者の表示を並べ替える新機能が加わり、“上座”指定ができると話題になった。それほどリアルの世界で上座問題を気にする人が多いということだ。コミュニケーションで大事なことはWebでも同じ。その基本的なポイントとは……
「間」は究極のコミュニケーション
「間」は究極のノンバーバルコミュニケーションで、受け手が「この人は何を言おうとしてるのだろう?」とあれこれ思いを巡らす、極めて重要な時間です。あえて言葉をなくすことで、より効果的にメッセージを伝えられることもあります。
コミュニケーションのうまい人は、たいていこの「間」を巧みに使います。わざと言いよどんでみたり、途中で水を飲んでみたり。ときには「……」という空白の時間が、相手との距離を縮めることだってある。
個人的な話になりますが、私はテレビの仕事を始めたときに、久米宏さんに最初に言われたのが「間を大切にしなさい」ということでした。そして、「落語を聞くと、間の使い方が分かるから聞いてごらん」とアドバイスを受けました。
1人で何役も演じたり、そのシーンの雰囲気を伝えたりするのが落語で、言葉の間に絶妙な「間」があるというのです。勧められた通りに落語のCDを買って何度も聞いてみましたが、当時はいまひとつ「間」の意味が分かりませんでした。
しかし、実際のテレビで生放送を何度も経験するうちに、しゃべり続けるのではなく、一瞬でもいいから「間」を置くと、相手に伝わりやすくなることに加え、自分もうまく話せることに気が付きました。生放送は決められた時間の中で情報を的確に伝えなくてはなりません。時間との勝負で、あれもこれもと話そうとすると頭がいっぱいになってしまいます。ところが、「間」を取りながら話すと、自分の伝えたい情報がうまく言えるようになっていきました。「間」を置くことで、誰かと対話しているような感覚になり、それが視聴者への分かりやすさにつながっていったのです。
言うまでもなく、久米さんは「間」の天才でした。当時、番組には大物政治家が「出たくない!」と言いながらも出てくれていましたが、政治家が何よりも嫌ったのがCMに行く前の、久米さんの間です。
……と、「ネット上座」の話題からテレビの話まで、今回は少々話が飛びましたが、この数カ月の変化のスピードは、生身の人間が耐えることができる限界を完全に超えていることだけは確かです。
Webはつながっているようで、つながっていない。頭は「つながっている」と認識しても、心が孤独感を抱くことがあります。ですので、「仲間外れ感」に苛まれている人を社内で量産しないためにも、あれこれ五感を駆使したコミュニケーションのあるWeb会議にトライしてみてください。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)
お知らせ
新刊『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)が発売になりました!
失業、貧困、孤立――。新型コロナウイルスによって社会に出てきた問題は、日本社会にあった“ひずみ”が噴出したにすぎません。
この国の社会のベースは1970年代のまま。40年間で「家族のカタチ」「雇用のカタチ」「人口構成のカタチ」は大きく変化しているのに、それを無視した「昭和おじさん社会」が続いていることが、ひずみを生み続けています。
コロナ禍を経て、昭和モデルで動いてきた社会はどうなってしまうのか――。
「日経ビジネス電子版」の長期連載を大幅に加筆し、新書化しました。
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