菅政権の肝いり「デジタル庁」は中途半端で大丈夫か――電子国家・エストニアの教訓:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
菅新政権の目玉政策の一つが「デジタル庁」の新設。だが2021年中の設置、時限組織というのは中途半端では。平井デジタル改革相も口にするデジタル大国・エストニアの事例を見ると、便利さにはリスクも伴う。セキュリティ対策も徹底した組織運営が必要だろう。
デジタル庁にも「積極的防衛」を
エストニアのデジタル社会は、役所の業務をデジタル化しただけでなく、こうしたセキュリティの修羅場を生き延びてきたからこそ存続している。日本のデジタル庁は、こうした脅威に対処できるのだろうか。デジタル庁を作れば、そうしたリスクが付いてくることは自明だ。デジタル世界では、便利さにはリスクが伴う。
平井大臣は、ワールドビジネスサテライトでこう答えている。「セキュリティっていうのはNISC、ニスクっていう組織が日本にはある。私が2014年にサイバーセキュリティ基本法を作って、その時にNISCに権限を与えた、国内のセキュリティを見る。セキュリティを見るっていうところは一義的なNISCが権能を持ってます」
だがこのNISCもサイバー攻撃に対する実動的な対処は何もできない。攻撃の情報などを受け、各省庁や民間団体にアドバイスを出すのが主な仕事だ。彼らはシステムへの攻撃を止めることもできないし、対処することもできない。要は、やられっぱなしなのである。
平井大臣にはぜひ、デジタル庁を構築するのに合わせて、日本の公的機関だけでなく民間も襲ってくるサイバー攻撃への実動的な対策組織も作ってほしいし、それを強調して喧伝(けんでん)していくべきだろう。さもないと、デジタル化だけが進んで、セキュリティが追い付かないことになりかねず、便利さも失われてしまいかねないからだ。攻撃者を抑え、日本のデジタル化を守るために、時には積極的に出ていって「防御する」対策も必要になるだろう。
それには時限組織などではダメだろう。長期的に、積極的防衛などのセキュリティ対策を担うというビジョンを持った、デジタル庁の運営を期待したい。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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