菅政権の肝いり「デジタル庁」は中途半端で大丈夫か――電子国家・エストニアの教訓:世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)
菅新政権の目玉政策の一つが「デジタル庁」の新設。だが2021年中の設置、時限組織というのは中途半端では。平井デジタル改革相も口にするデジタル大国・エストニアの事例を見ると、便利さにはリスクも伴う。セキュリティ対策も徹底した組織運営が必要だろう。
大規模サイバー攻撃の犠牲になった歴史
それだけではない。エストニアはサイバーセキュリティ史に残る大規模攻撃の犠牲になったことがある。特に、デジタル化が進んだ国だっただけに、被害も甚大だった。
2007年、エストニアはロシアによる大規模なサイバー攻撃を受けた。首都タリンの墓地にあった、第2次大戦時のロシア兵士を表した高さ2メートルのブロンズ像がことの発端だった。1991年にソビエト連邦から独立したエストニアは、ソビエト時代の1947年に建てられたこの像の撤去を検討していた。エストニアに暮らすロシア系住民は、この像を、第2次大戦中にナチス・ドイツと戦って犠牲を払いながら勝利を勝ち取った象徴としてきた。一方でエストニア住民にしてみれば、この像はソビエトによる侵略の象徴である以外、何ものでもなかった。
そして2007年4月、エストニア政府はこの像の撤去に乗り出した。すると反発したロシア系住民の抗議が暴動に発展し、ロシアの議会がウラジーミル・プーチン大統領にエストニアへ経済制裁を科すよう要求したり、セルゲイ・ラブロフ外相が「胸くそ悪い」と発言したりするなど、それまでの像の処遇をめぐる両国間の緊張が、一気に外交摩擦へと発展した。
これを受け、インターネット上では、エストニアに対するDDos攻撃の参加を呼びかけるコメントがアップされ、オンライン掲示板にはその攻撃方法までが丁寧に記された。さらに、デジタル化を標ぼうするエストニア政府や金融機関を狙って、かなり大規模なサイバー攻撃が繰り広げられた。ボットネットを使った攻撃(ハッカーがあらかじめ乗っ取っていた数多くのコンピュータに一斉攻撃をさせること)、Webサイトの改ざん、大量のジャンクメール送信などで、省庁や議会、金融機関だけでなく、メディアや一般企業にも被害は及んだ。
エストニアのハンサ銀行は、オンライン業務の停止を余儀なくされ、100万ドル規模の損失を出した。ある新聞社では一気に大量のアクセスが起きたことで、サーバがパンクして何度もクラッシュした。エストニアのネット機能がほぼ機能しなくなっていた。攻撃は執拗で、数週間にわたったと報告されている。
この出来事は、エストニアだけでなく、欧州にもショックを与えた。そしてこのケースでNATOはサイバー専門家をタリンに送り、捜査と対策の協力を行った。その上で、08年にNATO初となるサイバー防衛政策を制定し、タリンに本部を置くNATOサイバー防衛センターを設立した。
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