菅政権の肝いり「デジタル庁」は中途半端で大丈夫か――電子国家・エストニアの教訓:世界を読み解くニュース・サロン(3/5 ページ)
菅新政権の目玉政策の一つが「デジタル庁」の新設。だが2021年中の設置、時限組織というのは中途半端では。平井デジタル改革相も口にするデジタル大国・エストニアの事例を見ると、便利さにはリスクも伴う。セキュリティ対策も徹底した組織運営が必要だろう。
公共サービスの99%が24時間利用可能
エストニアは1990年代半ばから、E-ガバメント(電子政府)の構築を目指してきた。当時から、国民にデジタルのID(個人識別情報)を振り分け、登録を義務付けた。そしてIDをベースに、公共サービスをデジタル化することを目指したのである。そのかいあって、現在では、公共サービスの99%は24時間365日、オンラインで利用できるようになっている。国民の3割はオンラインで投票を行うし、納税などの手続きもオンラインでできる。役所に行ったり、電話したりすることもないし、書類もない。これらのデジタル化によって、役所での手続きは大幅に軽減された。
医者はカルテをオンラインで取り出し、警察もすぐに過去の犯歴などを調べられる。車のナンバーを参照するだけで保険に加入しているのかまで分かる。引っ越しをしても、転居届や新住所の登録などもオンラインで数分で終わるという。そうした情報はさらに蓄積され、何かのサービスに登録する際には自分の過去の情報についていちいち説明や証明をする必要はない。データベースにあるからだ。教育現場でも、エストニアの学校の85%はオンライン対応ができている。
エストニアでは、結婚と離婚、不動産購入以外は全てオンラインで完結するといわれていた。エストニアはそもそも、意識としては、デジタル化を標ぼうしてデジタル化を進めたのではなく、行政や国民の負担を減らすという目標が先にあったという。
公共サービスといえども、民間とのつながりがスムーズにいかなければ、デジタル化も意味がない。例えば、会社設立に必要な手続きなどはオンライン上で20分以内に完了するという。さまざまな官民の情報をやりとりできる管理システムは「X-Road」と呼ばれ、このシステム構築がエストニアのデジタル化社会の基盤となっている。そこから、Eコマースやネット上の銀行サービスなどにも広がっていった。ただデータは、セキュリティ対策で分散して管理されているらしい。
一方、専門家の中には、エストニアの成功を他国は参考にすべきではないという人もいる。というのも、エストニアは人口130万人の国で、行政などのシステムもあまり複雑さはなく、規模が小さいためにシステムを構築しやすい。事実、17年にIDシステムに脆弱性が発見された際には、政府が直ちにその事実を国民に知らせ、国民は指示通りにIDの証明書を登録し直した。人口の多い国では、そうした対応はなかなか難しいだろう。
関連記事
- “ファーウェイ排除”本格化で5Gの勢力図はどうなる? エリクソン、サムスンの動きとは
米政府によるファーウェイへの半導体輸出規制が強化された。同社が半導体を入手できなくなれば、シェアトップを誇る5Gの機器にも打撃となる可能性がある。5Gを巡る勢力図は米国の介入によってどう変化しているのか。韓国のサムスンも存在感を見せ始めている。 - 日本が狙われる ロシアのドーピング処分で暴れる「クマさん」の危険
ロシアが五輪などの大会から4年間追放される処分が決まった。このことは、私たちと「関係ない」で済まないかもしれない。東京五輪と日本企業が「クマさん」による非常に危険な脅威にさらされる可能性があるからだ。「クマさん」が何をするのかというと…… - データも人材もファーウェイに流出? 倒産するまで盗み尽くされた大企業に見る、中国の“荒技”
2009年に倒産したカナダの大手IT企業が、中国から継続的なサイバー攻撃を受けていたことが報じられた。ファーウェイなどに情報や人材が流出したと見られている。コロナ禍で体力が弱った日本企業も標的になっており、すでに工作が始まっていても不思議ではない。 - “テレワーク急増”が弱点に? 新型コロナで勢いづくハッカー集団の危険な手口
新型コロナウイルス感染拡大で世界が混乱する中、それに便乗したサイバー攻撃が激増している。中国やロシアなどのハッカー集団が暗躍し、「弱み」につけ込もうと大量の偽メールをばらまいている。新型コロナに関する情報と見せかけたメールには注意が必要だ。 - 僕らのヒーローだったジャッキー・チェンが、世界で嫌われまくっている理由
香港アクション映画の象徴的存在、ジャッキー・チェンのイメージダウンが止まらない。隠し子である「娘」の振る舞いや、自伝で語られた「ダメ人間」ぶりなどが欧米やアジアで話題になっている。私たちのヒーローだったジャッキーに何が起きているのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.