JR東日本がトヨタと組む「燃料電池電車」 “水素で動く車両”を目指す歴史と戦略:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
JR東日本がトヨタ自動車などと燃料電池を活用した試験車両の開発で連携する。業種の垣根を越えた取り組みは各社にメリットがある。JR東にとっては、次世代車両として燃料電池電車を選択肢に加え、最終目標のゼロエミッションを目指す一歩となる。
2050年のゼロエミッションを目指して
興味深いことは、JR東日本が燃料電池車両の報道資料の末尾で「JR東日本グループ全体で2050年度CO2排出量『実質ゼロ』に挑戦します」と宣言している。これに関しては2日後の10月8日に正式な報道資料が公開された。
JR東日本は川崎に火力発電所があり、電車や駅の電力の一部を自家調達している。これを水素発電に切り替える。風力発電など再生可能エネルギー発電も増やす。新潟県十日町の水力発電は資料には記載されていないけれど、水力は再生エネルギーに入らないか、あるいは微妙な問題があるせいだろうか(関連記事)。
エネルギーの消費側としては、非電化区間の鉄道車両の電力化、グループ会社が保有するバスの燃料電池化がある。しかし、ゼロにするためには、保線用の車両やトラックも燃料電池に切り替える必要がある。あと30年でそれを達成すると意気込む。いや、達成しなくてはいけない。
15年のパリ協定(第21回気候変動枠組条約締約国会議)に署名した国々はCO2の削減目標を掲げており、英国やEUの一部は2050年までに実質排出量ゼロを法制化した。日本も50年までに80%削減し、その後速やかにゼロを目指す。JR東日本はその実現のために先頭を走ると宣言したわけだ。その手札の1つが「水素エネルギー社会」である。
JR東日本は非電化区間について「ハイブリッド気動車」「燃料電池電車」「蓄電池電車」「電気式気動車」という幅広い選択肢を持った。それはちょうど、トヨタ自動車がゼロエミッションの過程として「ハイブリッド」「PHEV」「EV」「燃料電池」を用意した過程に似ている。今すぐに正解を決めない。今できることは全てやる。しかしゴールはゼロエミッションだ。この流れについてトヨタとJR東日本はよく似た考えを持っている。
航空機製造大手のエアバスも水素燃料の航空機を2035年までに実用化すると発表した。そういえば水素燃料はロケットエンジンから始まっている。エネルギーを中心に据えれば、線路、道路、空路の連携が今まで以上に必要になる。別件で何度も書いているけれども、交通インフラについて、縦割り行政を解消した統合的なデザインが必要だ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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