島忠巡り『キングダム』状態のホームセンター業界 秦=カインズにDCM、ニトリはどう戦う?:小売・流通アナリストの視点(1/5 ページ)
DCMと島忠の連合に、ニトリが待ったをかけた。小売・流通アナリストの中井彰人氏は、昨今のホームセンター業界を「古代中国戦国時代」と説く。同時代は人気マンガの『キングダム』で描かれているが、さて、その心は。
合従連衡という言葉の語源は、古代中国の戦国時代末期に、強大な秦に対抗するために、残る諸国が生き残るため講じた同盟策から来ている、というのは有名な話だろう。最近では、この時代を舞台にしたマンガ『キングダム』が、映像化もしているので、こうした時代背景については、若い方々も知っておられるだろう。今のホームセンター業界は、「キングダム状態」ともいえるのではないか。全国制覇を目指す一強に対抗して知略の限りを尽くして諸国が対抗する絵がそう見える。
横浜の旧市街でマンション暮らしをしている筆者は、家具を買いに行く機会はそう多くないのだが、近くにある島忠のホームズ新山下店は、よく利用している。ここは、島忠のホームセンターとスーパーのオーケーストアを核に、書店、カフェなどもあり、その他にファッション系の店舗や、100円ショップなどのテナントが入っていて、日常の買物は一通り済んでしまう便利な複合施設として重宝している。
そんな島忠が、ホームセンター大手のDCMグループ入りしそうだ。そして、ここにきてニトリが参戦してきたのは、中華に隣接する地域の強大な北方民族が乱入してきたというイメージだろうか。異民族の匈奴(きょうど)ともいうべき異業種ニトリが、ホームセンターにとっての中原に介入してきたという構図に見えたのである。
シマホ(島忠が自ら名乗る愛称)ユーザーとしては見過ごせないニュースでもあり、今回はその背景について考えてみよう。
デフレ時代の勝ち組、ニトリ
まずは、家具小売業界の過去を振り返る。1990年代以降の国内経済の停滞に伴って、住宅着工件数は2010年ごろまで急激な減少傾向が続き、こうした影響を受けて家具市場も大幅な縮小を余儀なくされた。バブル期までの需要拡大を背景に、全国各地には地場の家具チェーンが勃興していたのだが、こうした長い市場縮小が続く中で、多くの家具チェーンは淘汰されたり、業容を大幅に縮小したりして存在感を失っていった。この、デフレ時代以降の勝ち組といえば、いわずと知れたニトリホールディングスである。家具、インテリア雑貨の製造小売業(SPA)として圧倒的な地位を確立し、今もトップシェアを独走していることは周知の通りだ。
ニトリの勝因とされるのは、家具、雑貨を製造から販売まで一気通貫で行うSPAとして、他社の追随を許さないコストパフォーマンスを実願した、ということが本質なのであるが、もう一つ重要な勝因がある。それは、コスパの高いインテリア雑貨の品ぞろえを充実することによって、顧客の来店頻度を上げて、自社の家具売場の存在を消費者に刷り込むことに成功したことだといわれている。売場にお客を呼ぶことさえできれば、家具のコスパは一目瞭然で、家具にそこまでお金をかけたくない層をがっちりつかんだ。今でもニトリの売上の多くはインテリア雑貨であり、多くの店舗で1階売場が集客のエンジンであるというスタイルは、こうした過程で確立したのである。
家具チェーンの中で生き残ったパターンがもう一つある。ホームセンター併設型の家具チェーンで、その代表格は東の島忠、西のナフコとされ、両社ともにホームセンター業界では大手かつ高収益企業としても知られる企業だ。こちらも、1階をホームセンターにして、日用消耗品などを買いに訪れるお客を集客し、ついでにリーズナブルな家具売場の存在を認知してもらうことで、市場シェアを獲得していくことに成功した。家具は1年に何回かしか買わないが、洗剤やシャンプーなどの消耗品はもっと高頻度で購入する。そのため、家具購入機会があったときになじみのある店で買うという選択肢をとる人が多いという戦略であるが、実際その通りの結果を生んだということだ。
そんな高収益企業の島忠も単独経営を断念し、DCMグループという、各地の有力ホームセンターの合従連衡で生まれたグループ入りすることで合意した。
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