島忠巡り『キングダム』状態のホームセンター業界 秦=カインズにDCM、ニトリはどう戦う?:小売・流通アナリストの視点(2/5 ページ)
DCMと島忠の連合に、ニトリが待ったをかけた。小売・流通アナリストの中井彰人氏は、昨今のホームセンター業界を「古代中国戦国時代」と説く。同時代は人気マンガの『キングダム』で描かれているが、さて、その心は。
DCMって、何者?
DCMホールディングスは地方の有力ホームセンターであるホーマック(北海道、東北が地盤)、カーマ(中部地方が地盤)、ダイキ(中四国が地盤)が2006年に経営統合して誕生した業界トップクラスの企業で、伸び悩む市場環境を踏まえた業界再編の受け皿としての旗印を掲げている。これまでにも大手企業ケーヨーと資本提携して持分法子会社とし、また地方の中堅中小同業を買収するなどして19年までは業界トップをひた走っていた。今回、DCMグループと島忠が手を結ぶ背景には、20年に業界トップシェアへ返り咲いたカインズの存在が大きいといえるだろう。
次の図表は、10年と20年時点のホームセンター売上ランキングを比べたものだ。10年時点でグループ3社合計の売上は約4100億円に達しており、当時のトップ企業カインズの売上約3300億円を凌駕(りょうが)していた。その後も中堅中小企業をいくつか傘下に収めたDCMグループであったが、20年ランキングでは、買収や合併をせず単独成長で4400億円に達したカインズにトップシェアを奪還されてしまった。統合によってトップとなったDCMグループは、ケーヨーとの本格統合がなかなか進捗せず、島忠を仲間に引き入れることでトップシェアを奪い返すしかなかった、と見ることもできよう。SPA化に早くから取り組み、着実に顧客の支持を得つつあるカインズの競争力に、DCMグループを含む同業他社は防戦一方の状況にあるといっても過言ではない。
戸建てエリアを軸に成長した島忠
埼玉県の歴史あるたんす屋さんから、家具チェーンへと発展し、その後ホームセンターとして着実に成長した島忠は、埼玉、東京、神奈川の一戸建てエリアを地盤として店舗網を構築し、大手の一角としての地位を築いた。
筆者は以前、ホームセンターのマーケットサイズに最も影響を与える要素を分析したことがあるが、戸建て住宅数の相関性が最も高かったことを思い出す。
中でも、ホームセンター需要が豊富な、庭付きで相応の床面積を持った戸建て住宅が最も多いエリアと言えば、言うまでもなく首都圏の郊外部の低層住宅地ということになろう。人口流入が続く首都圏郊外の戸建て住宅エリアを店勢圏とした島忠は、この恵まれたマーケットを背景に、売上1400億円超の業界大手に成長したのである。
しかし、島忠がその外周部にまで、店勢圏を拡大することはなかった。
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