島忠巡り『キングダム』状態のホームセンター業界 秦=カインズにDCM、ニトリはどう戦う?:小売・流通アナリストの視点(4/5 ページ)
DCMと島忠の連合に、ニトリが待ったをかけた。小売・流通アナリストの中井彰人氏は、昨今のホームセンター業界を「古代中国戦国時代」と説く。同時代は人気マンガの『キングダム』で描かれているが、さて、その心は。
島忠の「本丸」へ攻勢を見せるカインズ
北関東地盤のカインズは、郊外から地方エリアへの展開を進め、かつては地代の高い16号線内側への出店は少なかったが、近時では首都圏への攻勢を強め始めている。都市型インテリア雑貨の新業態、郊外のライフスタイル特化型コンパクト店、プロ向け小型店などを神奈川県内に相次いでオープンするなど、今後、首都圏の内側への攻勢を念頭に置いた業態展開であることは明らかだ。
一方で勢力圏を拡大できなかった島忠の売上、利益は共に伸び悩み、14年をピークに19年までは減収が続き、コロナ禍の巣ごもり需要を受けた20年は何とか増収に反転したという状況にある。この状態で、業界最強プレイヤーのカインズが島忠の「縄張り」への攻略を本格化するならば、いずれ業績にも影響が出るという危機感が醸成されていたに違いない。
北関東から発祥して全国展開を進めるカインズに包囲されつつある島忠と、カインズとトップシェアを競い合うDCMグループとの利害は共通していた。島忠は、この好業績期こそ、DCMグループに対して最も有利な「同盟条件」を引き出せる好機となったに違いない。ただ、このトップシェア連合が規模だけでカインズに対抗することは簡単ではないだろう。早急にグループのインフラ統合を進め、価値訴求できるPB商品の提供を目指すしかないのだが、先行するカインズの進化のスピードを凌駕(りょうが)するには、相当に求心力ある経営が求められるだろう。
――と、ここまで整理した上で、最後に急に名乗りを上げたニトリとの兼ね合いについても触れておこう。
ニトリが黙って見ているはずがなかったワケ
北海道から発祥し、全国展開を果たして今や小売業界屈指の有力企業となったニトリにしても、地方郊外を制覇してきたときと同じ手法で首都圏攻略とはいかず、都市型フォーマットを開発してシェア拡大を進めているのが現状だ。
世界有数の人口密集地である首都圏中央部には大きな空き地はほとんどなく、地方、郊外でやってきたように大型店を出店して、競合からシェアを奪うというやり方はできない。また、不動産コストもかさむため、投資モデルを修正せざるを得ないだろう。インテリア雑貨中心に構成したビルインタイプである「デコホーム」などの中小型店を投入して、首都圏でも着実にシェアを獲得しつつあるが、ニトリの求める成長スピードからすれば歯痒かったに違いない。
そこに、埼玉発祥という地の利を生かして首都圏に確固たる大型店ネットワークを持つ島忠が、M&Aに応じるというニュースを耳に挟んで黙っていられるはずがない。盤石の財務体質を持つニトリが資金力にモノを言わせて割り込むのも、当然の行動と見えてくる。ニトリがこれまで地盤としてきた地方郊外は、今後は人口減少、高齢化によってマーケットサイズが縮小することは避けられない。その前に、海外市場を開拓することと、人口集積地である3大都市圏を確保すること、この課題を解決することは、ニトリとしても死活問題なのである。とすれば、最大のマーケットである首都圏に足掛かりを確保できる千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。敵対的TOBであろうと構ってはいられないのである。
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