セコい値下げで喜んでいる場合ではない、NTTのドコモ完全子会社化ウラ事情:5G時代なのに……(2/4 ページ)
NTTがドコモを完全子会社すると発表。5Gや6Gのイニシアチブ奪還に向けて歓迎する声も多いが……
一つは、国民のほぼ全員が手にしているものであり、その値下げは誰にも分かりやすく批判を受けにくいことが挙げられるでしょう。また、携帯電話は国が免許制度の下に認可している「国民資産」である電波を使ったビジネスであり、携帯電話業者からも民業圧迫だとの責めを負いにくい存在であることもポイントです。
加えて申し上げるなら、業界最大手ドコモの親会社であるNTTはもともと半官僚組織の電電公社であり、現状でも約35%の株式を保有する筆頭株主として政府の言うことをきかせることが容易であること、も忘れてはいけません。菅首相の総務大臣経験から、このような格好のアピール戦略を思いついたのであろうことは容易に想像がつくところでもあります。
さて、本件の大きな問題点の一つは、菅首相がこの件を公言し始めた2年前と今では状況が変わってきている、ということです。すなわち、携帯電話業界を巡る環境が大きく変わってきていることです。それはとりもなおさず5Gを巡る日本の周回遅れ、という問題です。
5Gに関しては、日本も世界各国と同じく18年当時からその対応ビジネス展開を検討してきてはいたのですが、その実用化については20年の東京五輪に合わせようという官民共通の暗黙の了解的方針がありました。ところが、米国をはじめとした世界各国は、急速に注目を集めたデジタルトランスフォーメーション(DX)浸透のカギを握る技術という認識の広がりにより、19年に相次いで商用サービスを開始したのです。
商用サービスの開始が、インフラ整備や5G活用サービス開発の活発化を誘引するのは当然の流れであり、それによって日本は5G関連の特許申請でも世界から大きく後れを取ることになっています。ちなみに5G関連特許申請に関しては、わが国でトップを走るドコモでも、世界シェアはひとけた台にとどまっており、至ってお寒い状況にあるといえます。
通信インフラで主力技術を他国に握られてしまうというのは、国家戦略を考える上からも非常に危険な要素をはらんでいます。5Gにおける1年の出遅れは致命的であり、もはやここで主導権を握るというのは現実的ではないと言っていいでしょう。ならば日本の通信戦略はどうあるべきなのでしょうか。
関連記事
- 本当に大丈夫? 菅首相の「地銀再編」発言が、再び“失われた10年”を呼びそうな理由
菅首相がしきりに口にする「地銀再編」。確かに苦境に置かれる地銀だが、再編はうまくいくのだろうか。筆者は過去の長銀破綻を例に出し、また「失われた10年」来てもおかしくないと指摘する。 - 半沢直樹を笑えない? 現実に起こり得る、メガバンク「倍返し」危機とは
7年ぶり放映でも好調の「半沢直樹」。「倍返し」に決めぜりふに銀行の横暴を描く姿が人気だが、どうもフィクションだけの話では済まない可能性が出てきた。現実のメガバンクに迫りくる「倍返し」危機とは? - 7年ぶりに新作の半沢直樹 1月放送の「エピソードゼロ」からメガバンクの生存戦略を読み解く
7年ぶりに続編が放映されるドラマ「半沢直樹」。当時から今までで、銀行界はどう変わった? メガバンクの生存戦略と作品を合わせて読み解く。 - 「カメラ事業売却」の衝撃 業務提携中のオリンパスとソニー、祖業を巡る両社の分岐点とは?
カメラ映像事業の売却を発表したオリンパス。好対照なのが、業務提携関係にあるソニーだ。コロナ対応を巡る両社の分岐点とは? - 長期化するコロナショック レナウンの次に危ない有名企業とは?
新型コロナの影響はとどまらず、航空業界、観光業界を中心に甚大な影響を与え続けている。日本企業では、レナウンの破綻が話題となったが、経営に詳しい筆者の大関暁夫氏は、次に危ない企業として、2つの有名企業を挙げる。共通するのは、両社とも“時限爆弾”を抱える点だ - 都銀再編時に「ごみ箱」構想を持っていた金融庁と地銀救済で手を組むSBIホールディングスは天使か、悪魔か?
SBIホールディングスが仕掛ける「地銀救済」。陰には金融庁の影響も見え隠れするが、「証券界の暴れん坊」と目されるSBIと金融庁、それぞれの思惑とは? 過去、銀行勤務時代に大蔵省との折衝を担当していた筆者によると、90年代の都銀再編時に官僚は「ごみ箱」構想を持っていたという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.