ディズニー決算から考える、厚労省発表「コロナ解雇7万人」が“それどころではない”ワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
厚生労働省は6日、コロナ禍が関連した解雇・雇い止めが今年2月からの累計で7万人を超えたことを明らかにした。解雇ペースは緩やかになっているというが、これほどまでに影響は小さいと本当にいえるのだろうか。
厚生労働省は6日、コロナ禍が関連した解雇・雇い止めが今年2月からの累計で7万人を超えたことを明らかにした。解雇ペースは緩やかになっているというが、これほどまでに影響は小さいと本当にいえるのだろうか。
実際のところ、厚労省の統計はコロナ関連の解雇・雇い止め全ての実態を把握しきれていないだけでなく、「解雇・雇い止めにあたらないものの、退職者・失業者の増加をもたらす失業」も対象外となっている。自主都合で退職する選択をとった労働者や、グループ会社への出向のような事例は対象外なのだ。
さらに、新卒社員の募集停止のように、将来的な労働需要の抑制によって減少した雇用についてもカウントされない。そのため、厚労省の発表における7万人という数字は実態でいえば氷山の一角といわざるを得ないだろう。
そこで、コロナ禍の労働市場に対する影響を確認したい。まずは、この上半期に休園で大きな影響を受けた「ディズニーランド」等を運営するオリエンタルランドの決算から、同社で働く社員の雇用事情を確認していこう。
ディズニー決算からみる、統計にあらわれない“激変”
同社は6月末までの臨時休園が解除されてもなお、安全に配慮して入園制限などを実施していた。その結果、入園者数は前年比で60%減程度と低調で推移している状況だ。売上高は前年同期比で76.7%減の591億円、営業利益は241億円の赤字に転落した。
人件費の内訳を確認すると、同社は準社員人件費を半期で39億円、正社員人件費を36億円削減していた。冬の賞与7割カット及び、ダンサー等準社員約1000人への配置転換・退職要請が人件費カットの主な内容だ。
下半期には開業による需要増に対応するため、正社員に対する人件費は20億円増加する見込みである。その反面、準社員に対してはワークシェアなどの効率化を継続し、5億円程度の人件費を削る計画である。
オリエンタルランドはあくまで「解雇」ではなく、配置転換や報酬の減額という「雇用の維持」を主軸に置いている。そのため、仮に会社から提示された報酬の条件や、配置転換先がこれまでの経験と比較して過剰に不利なものであれば、自主都合として退職せざるを得ない。
同社は、準社員の新規採用停止やキャストの配置調整、休業手当終了等の施策により、通期で310億円程度の支出抑制を実施する計画だ。同社はこれを「痛みを伴う人事施策」と表現し、役員報酬も減額することで株主や社内にも理解を求めるかたちとなる。しかし、上記の施策の方針を鑑みれば、「痛み」という言葉は特に準社員に向けられたものであるといえるのではないだろうか。
典型的な解雇・雇い止めに当たらないものの、実質的にはやりたい仕事とは別の配置をされたり、生活水準を切り下げたりせざるを得ない給与カット等の要因で退職を余儀なくされるという事例は少なくない。統計にあらわれてこないコロナの労働市場に関する影響が、私たちの意識と厚労省の「コロナ解雇7万人」というギャップを生んでいるとみられる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- “ピーク比75%減” 渋谷ハロウィンから考える「コロナと東京一極集中」
数年前から慣例化している「渋谷ハロウィン」であるが、今年の渋谷ハロウィンはコロナ感染リスクが高く、区長直々の自粛呼びかけの効果もあり、例年と比較すれば相当低い人出となっていたという。コロナ禍で人の動きが抑制された渋谷ハロウィンから視点を広げて、国内に目を向けてみよう。コロナ禍で人々の動きは抑制されたのだろうか。 - 新ワザ「無限くら寿司」の本質が「マスク転売と同じ」と断言できるワケ
「トリキの錬金術」が規制されてまもなく、新たなGo To Eatの裏技「“無限”くら寿司」が発見された。くら寿司側が公式サイトで大きく画像を掲示しており、利用を促す姿勢が目立つ。しかし、実質無料となる理由は、政府が財源を支出しているからに他ならない。政府が懐を痛めるということは、私たちの納めた税金がこのような“裏技”に注ぎ込まれるということを意味する。 - 全てのビジネスパーソンが、東証の“完璧すぎる記者会見”を見るべき理由
10月1日に、東京証券取引所でシステム障害が発生した。しかし、システム障害当日の夜に実施された記者会見は、「完璧」といっても過言ではない内容であり、ビジネスパーソンにとって見習いたい点が数多くみられた。あの会見には、東証のどんな優れたポイントが隠れていたのだろうか。 - 「SBIや三菱UFJも被弾」相次ぐ不正出金のウラに隠れたもう1つの危ない現実
9月7日のドコモ口座による銀行預金の不正出金問題がくすぶり続けている中、16日にはSBI証券の顧客口座から、不正に計9860万円が引き出される事件が発生した。今回は、これらの不正出金問題を振り返りつつ、巷で見過ごされがちなもう1つの危ない現実についても確認したい。 - JALの大幅減収決算が示唆、コロナ影響はリーマンショックの2倍以上?
需要急減により窮地に立たされている空運業であるが、かつては不景気に強い傾向があったことをご存知だろうか。そうであるとすれば、なぜ今回の不景気では最も打撃を被った業界の1つに数えられることとなったのだろうか。