円安・株高の関係が終わりを告げる? 外貨預金も金利悪化:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
ワクチン開発から株価上昇が続くなか、これまでの常識が通用しなくなりつつある市場も存在する。為替市場だ。アベノミクス始動から半ば常識となっていた「円安株高」が、このワクチン相場では通用しない状況になっている。今の状況は「円高株高」となっているのだ。
政策金利は外貨預金の金利悪化にも影響
当然、政策金利が低くなれば、外貨預金の金利も悪化する。一部の通貨を除けば、外貨預金を行うメリットは現状ほぼないといっても過言ではない。
みずほ銀行によれば、主要な6通貨のうち、ポンド・ユーロ・豪ドル・ニュージーランドドル・スイスフランの外貨普通預金金利は、日本円の普通預金金利と同じ0.001%となっている。
米ドルは辛うじて0.01%と、他の10倍の金利がつくといえば聞こえはいいが、この金利水準であれば、一般的なネット銀行の日本円普通預金金利並であり、高いとはいえない。外貨預金がペイオフの対象外であることや、預入にあたり一定の為替手数料がかかることも考慮すれば、現状の外貨預金は日本円の普通預金以下といってもいい状態になってきている。
仮に、為替相場が円安基調であれば、金利がつかなくても、預入時と解約時の差額がキャピタルゲインとなる。しかし、20年頭に110円近辺であった米ドル円相場は、17日には104円台へと下落し、キャピタルゲインを得ることも難しい。つまり、現状においてはインカムゲインの観点からみても、キャピタルゲインの観点からみても、外貨預金はそれほど合理的な投資先とはいえないことになる。
各国が金融緩和によって利下げを選択する中で、日本の政策金利は横ばいだ。他国の金利が悪化することで相対的に日本の金利水準が良く見えるため、日本円の買い(円高)をもたらしているのだ。
円高・株高は続くのか
それでは、足元を取り巻く円高・株高の流れは今後も継続していくのだろうか。それは、日本における金融政策の動向にかかっている。日本はコロナ禍が発生した状態であっても金融政策の動向を据え置いたままだ。さらに、16日には日銀の政井貴子審議委員が日銀によるETFの保有残高について「相応の規模となっている」点にも言及しており、金融緩和の出口の端緒について伺わせる場面もみられる状況だ。
仮に、日銀がコロナ禍の経済的影響を重くみることで、緩和の規模を拡大することがあれば、市場に供給される日本円の総量が高まり、円安をもたらす可能性がある。しかし、コロナ禍が今後深刻化してもなお、他国のような大規模な金融緩和政策が取りづらい事情があるとすれば、金融政策面での緩和は限界に近いとみられる。その場合、他国が元の金利水準に戻るまでは、たとえ株高となっても、それが円安をもたらす可能性が高いとはいえない。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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