円安・株高の関係が終わりを告げる? 外貨預金も金利悪化:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
ワクチン開発から株価上昇が続くなか、これまでの常識が通用しなくなりつつある市場も存在する。為替市場だ。アベノミクス始動から半ば常識となっていた「円安株高」が、このワクチン相場では通用しない状況になっている。今の状況は「円高株高」となっているのだ。
コロナで世界的な低金利時代に突入
コロナ禍による大きな市場環境の変化といえば、各国の政策金利だろう。政策金利とは各国の金融機関における預金金利等のバロメーターとなる金利水準だ。一般的に、インフレ率や経済成長率の高い新興国は政策金利が高く、先進国は低金利になる傾向がある。
低金利の国では、高金利の国に資金を投資し、その金利差で高い利回りを期待する「キャリー投資」という投資手法が人気だ。日本でも、外貨預金や外貨建て保険、そして外国為替証拠金取引(FX)等におけるキャリー投資が人気であった。
とりわけ「高金利通貨」とされるオーストラリアドルやニュージーランドドルが人気を博してきたが、コロナ禍はそのようなキャリー投資が難しい市場環境を作り出してしまったのだ。各国の「高金利通貨」とよばれていた通貨の政策金利を比較してみよう。
コロナ前の20年2月と、20年9月における各国の金利を見てみると、いわゆる「円キャリー投資」によく用いられていた、米ドル・ポンド・豪ドルをはじめとしたほとんどの高金利通貨が「利下げ」を行っている。特に、高金利通貨の代名詞といっても過言ではなかった南アランドは、年6.25%から3.5%と大幅な利下げに踏み切っている。また、豪ドル、ニュージーランドドルも、0.25%と米ドル並みの低金利に落ち着いている。
米ドルについては、20年2月まではこれまで続いた量的緩和を縮小する金融政策の一環として利上げを推し進めていた。しかし、コロナ禍による経済悪化の懸念から再度の金融緩和に踏み切らざるを得ず、主要国としては最大幅となる1.5%の緊急利下げを実施した。
ここからいえることは、日本円を他国の通貨建ての資産に移し替えたとしても、以前のような金利差による高収益を期待できなくなってきたということだ。このように、利ザヤが縮小すれば、日本円を他国の通貨に両替する需要も少なくなる。つまり、円安方向への圧力が小さくなるということだ。
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