「2代目」が陥るワナ――大戸屋の、“愛言葉”を忘れた値下げ路線が失敗しそうなワケ:大塚家具の二の舞か(1/4 ページ)
経営権を巡ってドタバタ劇を繰り広げる大戸屋。“愛言葉”を忘れた新体制による、祖業を見切った値下げ路線は成功するのか。大塚家具とともに、大戸屋でも起こっている創業家2代目が陥るワナとは?
定食チェーン運営の大戸屋ホールディングスが、TOBにより居酒屋「甘太郎」や焼肉「牛角」などを展開する複合飲食チェーンのコロワイドに経営権を握られたことを受け、経営陣の刷新を発表しました。新役員人事では、経営権を握ったコロワイド側からの要請により、窪田健一社長など取締役10人を解任。新たに蔵人賢樹コロワイド専務を社長として、大戸屋創業者である故三森久実氏の長男・智仁氏を含む7人の取締役を選任しました。
大戸屋騒動、そもそもの経緯
これまでの展開を整理しておきたいと思います。大戸屋は創業者の故三森久実氏が池袋に創業した「大戸屋食堂」をチェーン展開したものでした。チェーン店でありながらも店舗内調理により、店の味を大切にしたおしゃれな定食屋というコンセプトの下で人気を博し、店舗数は2019年3月末時点でフランチャイズを含め国内外に463店舗まで拡大。しかし15年、久実氏が肺がんで逝去し、経営の転機が訪れます。
11年のホールディングス化と同時に社長の座は久実氏の従弟である窪田健一氏に引き継がれていましたが、常務職にあった智仁氏との間で対立が発生。取締役に降格された智仁氏は、自身の処遇を不満として16年3月に取締役辞任を申し出、社外に去ることになります。
ただ、智仁氏は社外に去ったとはいえ、久実氏から持ち株を相続しており、母の持ち分と合わせて約19%を持つ大株主であり続けていました。大株主として経営権奪取を虎視眈々と狙っていた智仁氏は、M&Aを重ねて業容拡大を図ってきたコロワイドに想いを託し、19年に創業家の株を売却。コロワイドは筆頭株主に躍り出て、20年6月の株主総会で智仁氏の取締役就任を含めた経営陣刷新を求める株主提案を提出します。
しかし、結果は「否決」。ならばと二の矢を放ったのが、敵対的TOBによる経営権奪取だったワケです。その行方が注目を集めた敵対的TOBですが、買取価格に直近株価の46%ものプレミアムを上乗せしたことで見事成立となり、コロワイドが経営権を握って今回の役員人事刷新に至ったというのがここまでの経緯です。
結局、智仁氏の判断は正しかったのか?
本TOBを取り上げたメディアの論調は、主に「店内調理こそが大戸屋の強みである」とする旧経営陣と「セントラルキッチン化でコストダウンを図るべき」と主張するコロワイド側、果たしてどちらが正しいのか的なものですが、この論点の行きつく先は本件に関する創業家2代目に当たる智仁氏の判断の是非でもあります。
結論から申し上げると、私の判断は「非」です。
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