JR九州の新型観光列車「36ぷらす3」の“短所を生かす”工夫 都市間移動を楽しくする仕掛けとは:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
JR九州の新型観光列車「36ぷらす3」に試乗した。観光列車先駆者である同社の新型車両は、車窓を楽しむ列車ではない。窓が小さく、景色を見せられない分、車内でのおもてなしに力を入れている。観光都市間を移動する空間を楽しくする、これまでとは違う列車だ。
「おもてなし重視」に発想を転換
もし、JR九州が「景色を楽しむ観光電車」を作るなら、787系電車ではなく、各駅停車用の815系、817系を使えばいい。座席4列分の大きな窓でダイナミックな車窓を楽しめる。それをあえて787系にした理由は、表向きには「デザイナーの水戸岡鋭治氏が初めて手掛けた特急形車両で観光列車を作りたい」だ。車両が余剰になったという事情もあるだろう。ただし、787系で観光列車を作るとなれば、窓の大きさが問題になる。そこで「おもてなしの空間」を重視するというコンセプトに発想を転換した。
窓については大きな声では言えないけれど、本格的な日本の建具なので、障子戸を持ち上げれば取り外せる。しかしそれは反則だろう。障子紙が破れたら面倒だし、何よりもこの列車のコンセプトに合わない。無粋だ。
そのかわり、車内のしつらえは上質で居心地が良く、退屈させない仕掛けが用意されている。観光の拠点都市を移動するとき、その時間と空間を楽しくする。これは今までの観光列車にはなかった隙間である。「楽しさ」と「快適さ」について、今までの観光列車とは考え方が違う。「36ぷらす3」は、移動空間をゆったり過ごしたい、同伴者とゆったり語り合いたいという、上級者向けの列車だった。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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