ようやく日本でも「電子化」が進む? アドビの好調な数字が示す、コロナの前と後:本田雅一の時事想々(1/2 ページ)
アドビによると、コロナ禍でPDF文書を読むためのアプリの月間アクティブユーザー数が急増。電子文書に触れる機会が増えたようだが、元に戻れない心地よさを提供できなければ、紙へと逆戻りすると筆者は指摘する。
行政サービスのデジタル化に期待している読者は少なくないだろう。縦割りの仕組みに応じて構築されてきたITシステムに、横串を刺していくプロセスは、想像以上に難しいかもしれないが、コロナ禍の現在ならば大きく変わる可能性があると思いたい。
「思いたい」と表現しているのは、そうあって欲しいと願っている一方で、行政機関関連の申請にあきれることが少なくないからだ。
筆者は先日、コロナ関係の融資に関連し、印紙で収めた税金を還付するとの連絡を受けた。同様の連絡を受けた読者もいるだろうが、筆者の場合、還付額は2000円。希望すれば書類を郵送するとのことだが、オンラインでPDFのフォームを入手できると書かれていたのをみて、迷わずPDFを選択した。
ところがダウンロードしたPDFファイルは、電子入力フォームの設定がされていないのは想像通りとして、カーボンコピーで複写する形式の3枚のフォームだったのだ。かくしてプリンタで印刷後、1年のうち税申告時にしか使わないカーボン紙を引っ張り出し、ボールペンで記入したのち、郵便ポストに必要書類をまとめて投函した。
同じことが全国で繰り返され、そして税務署長宛に送られる書類を処理する職員の手間などを想像すると、デジタル庁が取り組まねばならないことが、技術的なペーパーレス化ではなく、様式や伝票を回していくプロセスなど業務全般に関わることだと想像できる。直接比較はできないが、個人向け給付金で事務作業が“爆発”したのも致し方ないというところか。
……と、前段の話が長引いたが、先日取材したアドビの話を聞いていると、こんな日本でもいよいよ待ったなし、やっと「変われる」機会が到来しているのかもしれないと感じた。
コロナ禍で、好調のアドビ
在宅ワークの増加は、自然にペーパーレス化に使う道具を普及させた。好む、好まざるにかかわらず、紙伝票を手渡しできない環境下で仕事をせねばならない。当然ながら電子文書へと移行することになるが、一方で紙文書を電子化するだけでは、作業の流れは寸断される。印鑑の捺印(なついん)やサイン、フォームへの記入なども電子化されていなければ、コミュニケーションの流れは寸断されるからだ。
長年、ペーパーレス環境に慣れてきた読者や、IT系の業務に関わっている方ならば「何を今さら」という話だが、「紙の用紙や伝票を画面上で扱えるようにする」だけでは、業務改善にはならないという、実に当たり前のことを多くの人が感じたことは収穫でもある。
アドビによると、PDF文書を読むためのアプリ「Acrobat Reader」は月間アクティブユーザー昨年末の207%に増加。2019年12月は650万ユーザーだったが、20年8月には1350万ユーザーまで増加した。同様に電子サインサービス「Adobe Sign」は312%、スマホカメラでPDF文書を作成可能な「Adobe Scan」は273%と、いずれも大きくユーザー数を伸ばしている。数字はいずれもグローバルでの実績値だ。
この数字にリアリティーがあるのは、アドビがクリエイター向けツール事業だけではなく、電子文書関連のアプリケーション事業も“サブスク化”に成功しているからだ。PDFを作る、マーキングする、回覧する、フォームに入力するといった機能をツールで提供するだけでなく、クラウドを通じて文書を共有し、ワークフローを簡素にするソリューションを提供してきた。
そのため、これらのツールを使うためにはアドビのIDが必要となっている。先ほどの数字は単なるダウンロード数ではなく、実際に利用しているユーザー数だ。
無論、スマホで文書を撮影してPDFにしたところで、電子サインを埋め込んだり、入力フォームを作ったり、フォームを回覧して承認を得るためのワークフローを設計できるわけでもない。
とはいえ、まずは電子文書の一端に触れる機会が激増したことは大きい。
キヤノンが、業績回復に自信を見せる理由
対照的に感じたのがキヤノンの業績だ。
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