コロナ禍で「雇用調整助成金」を活用した上場企業は599社 計上額が最多の企業は……:小売・運送で高い申請率
東京商工リサーチが発表した雇用調整助成金に関する調査によると、新型コロナによる特例措置が取られた4〜11月の期間で、雇用調整助成金の計上または申請をした上場企業は599社。特に小売業や運送業で申請率が高かった。
従業員に休業手当を支給して雇用を維持する企業に対し、その一部を国が負担する「雇用調整助成金」。新型コロナウイルスの影響で、2020年4月以降、1人当たりの助成金の上限や助成率を引き上げる特例措置が取られている。厳しい事業環境が続いていることから、特別措置は21年2月末まで延長された。
東京商工リサーチが12月25日に発表した雇用調整助成金に関する調査によると、特例措置が取られた4〜11月の期間で、雇用調整助成金の計上または申請をした上場企業が599社に上ることが分かった。全上場企業3826社のうち、15.6%が特例措置を活用したことになり、消費や移動の需要縮小などで厳しい状況に置かれている企業が多いことが浮き彫りになった。
599社の雇用調整助成金の計上額は、合計2414億5420万円に上る。業種別に社数をみると、最多は製造業の237社。小売業の121社、サービス業の114社、運送業の41社と続いた。一方、申請した企業の割合を業種ごとにみると、小売業が33.9%でトップに。次いで、運送業が33.0%、サービス業が21.9%となり、社数が最多だった製造業は15.9%だった。
製造業では、工場の稼働停止などにより期間限定の一時帰休などを実施したことから、その期間の雇用調整助成金を申請した企業が見られたという。また、地方百貨店やチェーン展開する小売店、飲食店などは、緊急事態宣言による臨時休業を実施し、従業員を休業させるなどの措置を取っていた。
1社あたりの計上額は、「1億円未満」が最多で273社(構成比は45.6%)。「1億円以上5億円未満」が173社(同28.9%)、「10億円以上50億円未満」が48社(同8.0%)、「5億円以上10億円未満」が48社(同8.0%)と続いた。
計上額の上位企業は運送業やサービス業の大手企業が目立つ。トップはANAホールディングスで214億1100万円。次いで、 近鉄グループホールディングスが95億1700億円、オリエンタルランドが78億円。移動需要の縮小や施設の臨時休業の影響が大きかった企業で計上額が膨らんだ。
東京商工リサーチは「雇用維持は中小企業だけにとどまらず、上場企業でも大きな問題となっている。外食を含む小売と、交通インフラを含む運送業は、すでに上場企業の3割以上が雇調金を活用している」と指摘。さらに、「2021年の景気の先行きは不透明感が漂っている。低調な消費マインドと雇用維持との板挟みは続き、業績改善が見込めない企業では再びレイオフに踏み出すことも懸念される」と懸念を示している。
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