学生需要は急落したのに、なぜカシオの「電子ピアノ」は売れているのか:対前年比120%(2/5 ページ)
新型コロナの感染拡大によって、多くの企業が売り上げを落とした。そんな中でも、「あれ? このアイテムが売れているの?」と感じる商品がある。電子ピアノだ。カシオ計算機の電子ピアノは苦戦していたのに、なぜヒットしたのか。その秘密に迫ったところ……。
学生需要は急落したが、趣味需要で盛り返す
当初、楽器業界では休校や外出自粛によりオフラインの音楽授業が消滅したことで、大打撃が予想されていた。例年、4月に開講する学校や音楽教室への授業用途で管楽器やピアノなどの大量注文が入るのだが、それがごっそりなくなったからだ。
「当社の楽器事業では、学校や音楽教室での売り上げがシェアの35%を占めています。おそらく大手の楽器メーカーでは、それ以上に学校需要が主流なのではと予想します。休校が決まった2月下旬の時点では、どのメーカーも売上急落を覚悟したはずです」(松田氏)
1980年から楽器事業をスタートさせたカシオ計算機にとって、2020年は記念すべき40周年の節目。19年に大胆なモデルチェンジを取り入れた2種類の新製品を発売し、翌年の勝負の一年に向けて増産体制を取っていたが、休校の措置を受けてやむなく規模を縮小した。しかし、事態は4月を迎え急変する。
「われわれの予想に反して、楽器店やオンラインでの電子ピアノ・キーボードの販売数が一気に伸び始めました。急に始まったステイホームで、かつて慣れ親しんだ楽器を再開しようと考えた方や新しい趣味として楽器に目を向けた方が増えたこと。加えて、他社製品に比べてコンパクトで操作性がシンプルな点が人気を集めました。もうしばらくこの状況が続くと見込んで、人気モデルは縮小した生産体制を約2倍まで広げました」(松田氏)
増産体制を取ったにもかかわらず、12月現在でも在庫不足の状況が続いているという。結果的に、同社の楽器事業の売り上げは、21年3月期上期で前年比120%を達成。数年間、赤字が続いていた楽器事業がコロナ禍で一気に黒字化したのだ。
カシオ計算機同様に、国内に40店舗を持つ山野楽器でもウクレレやギターの売り上げが前年比約2倍と好調だ。また、松田氏によれば米国、中国、欧州などの地域でも楽器の売上増が続いているとのこと。とはいえ、米国のギター専門店「ギターセンター」をはじめ、閉店や自己破産申告をした楽器店もあり、一概に「楽器の売り上げが好調」とは言い切れない。
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