2021年のキャッシュレス業界 銀行の逆襲が始まるか(6/6 ページ)
国内では依然としてクレジットカードがキャッシュレス決済の大部分をけん引する。一方で、クレジットカードだけではカバーできない層にまで浸透する新しい決済手段としてスマートフォンを使ったコード決済やアプリ決済が登場し、ニーズの隙間を埋めつつ、従来の決済インフラでは現金利用が中心だった層においてもキャッシュレス経済圏を拡大すべく市場が広がりつつある。
特に“焦り”のようなものは、「ドコモ口座」の事件を通じて明らかになった。原因の一端がドコモにあるのは確かだが、一方でそもそもの根本的な原因はWeb口座振替における金融機関側の本人チェックが不十分な点にある。最終的に金融庁の指導が入って、業界全体でセキュリティを強化する方向に向かうことが確認されたが、関係者らの話を聞く限り、被害に遭った地銀側の当事者意識の低さが目立ったという。
ドコモ口座の件では、「セキュリティに問題がなく取引とサービスの早期再開を望む銀行」と「補償や検証の問題で紛糾し、再開対応に向けた動きが遅れた銀行」の2つに大きく分かれた。
一連の取材を通じて分かったのは、「資金移動業者と接続するためのWeb口座振替の仕組みは収益源の1つ」「セキュリティの強化は未対応の事業者には負担が大きく、スマホ決済サービスの利用者を減らす要因になり得る」もので、銀行にとって痛し痒(かゆ)しの対応だったこと。また、ゆうちょ銀行の会見で分かったのは、時代の変化にトップが危機意識を持ってはいるものの、必ずしも組織全体がそれに合わせて動けているわけではないことだった。
こうしたギャップを解消し、時代の変化に合わせて銀行がどう進化していけるのかが見られるのも2021年以降の大きなポイントかもしれない。
まとめると、キャッシュレスの推進と政府の数々の施策に潜む思惑は「銀行の収益構造を変化させつつ、いかに金融取引を活発化させるか」という、ごく当たり前の視点に沿って実行されていることが分かる。キャッシュレス推進は取引活発化のための施策だが、同時にウィークポイントとして「これまでキャッシュレスをあまり利用してこなかった層をどう取り込むか」という点があらわになりつつある。それを解決するのが「スマホ決済」や「(ミレニアルを対象とした)新しい銀行サービス」であり、今後社会の主役となる若年層を早期に金融システムへと組み込んでいくことにある。
当面のターゲットは「キャッシュレス決済比率40%達成を掲げる2025年」となるが、同時期に開催される大阪万博に向けては、MaaSなどのスマートモビリティやスマートシティの研究も進んでおり、すべてが25年を目標に動いている形だ。こうした背景を鑑みつつ、21年以降のキャッシュレス業界を俯瞰(ふかん)していると、より面白いものが見えてくるかもしれない。
関連記事
- 2020年のキャッシュレス業界 けん引したのは結局クレカ
20年のデータが出そろっていない段階ではあるものの、18年以降にキャッシュレス決済比率を押し上げたのはクレジットカードの利用増にある。PayPayが100億円規模の大規模キャンペーンを立ち上げ、いわゆるキャンペーン合戦によるシェアの奪い合いが激増したが「一番利用が多いPayPayでさえ全キャッシュレス決済の1割にも満たない」という声を聞いている。 - 2020年に変わる3つのフィンテック関連法改正 Fintech協会理事の落合孝文氏インタビュー
2020年はフィンテック関連でどのような法改正が進むのか。送金サービスを提供する資金移動業が3種類になり、1つの登録で証券、保険の商品などを販売できる「金融サービス仲介業」が登場。そして、給与を銀行振り込み以外で支払える、ペイロールカード解禁が想定される。 - 地銀の再編は“数の減少”にあらず? プライドを捨てて強み生かせるか
地方銀行の“再編”が待ったなしだ。しかし再編とは何か。「再編イコール、数を減らすというイメージがあるのではないか? そこに違和感、問題意識を感じている」。そう話すのは、日本資産運用基盤グループの大原啓一社長だ。 - 横浜銀行、スマホ決済に「iD」追加 QRコードからシフト
横浜銀行は8月20日、三井住友カードと提携して、QRコード決済サービス「はまPay」に、新たに非接触決済サービス「iD」で支払える「はまPay タッチ決済」の機能を追加した。「QRコード決済か非接触決済かはお客さまに選んでもらうもの」(横浜銀行の決済ビジネス戦略の室鳥山幸晴室長)とする。 - ドコモ口座問題の本質 裏口ではなく表玄関の銀行APIを使え
自分の銀行口座からいつの間にか預金が引き出されてしまうという、金融セキュリティの根幹を揺るがした「ドコモ口座事件」。「口座振替という“裏口”ではなく、セキュリティが高い表玄関を利用すべきだった。ネットバンキングや銀行API接続の中で、電子マネーチャージをうながしていくべきだった」。そう話すのは、電子決済等代行事業者協会の代表理事であり、マネーフォワードの取締役を務める瀧俊雄氏だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.