「ペーパーレス年末調整」が、従業員に選ばれる“会社の条件”になる?:リモートワークを止めないSaaS(2/2 ページ)
ペーパーレス年末調整を導入しているかどうかが、従業員から選ばれる会社になる条件の一つになりそうだ。
ペーパーレス年末調整とは、紙の書類を使わずにパソコンやスマホで年末調整を完結させるサービスを指す。単にシステム上で年末調整書類を入力させるのではなく、氏名や生年月日、住所、扶養情報などは労務データベースを参照することで入力不要にする、なるべく平易な言葉を使ったアンケートに答えているうちに必要項目が埋まっている、生命保険料などは昨年度のデータをそのまま保持しておく──など、デジタル化による恩恵を受けられるようにかなり工夫がされている。
年末調整全体の処理から考えると、書類の回収とチェック作業はまだ工程の半分にすぎない。労務部門では書類を回収した後、1年間の給与額を集計し、年末調整で収集した情報を加味した上で年間所得税額を確定させ、差分の調整額を計算し、12月の給与支払い時に精算する。これらを全従業員分行った上で、税務署や自治体に提出する法定調書を作成する。とてもじゃないが紙やExcelで行えるようなものではないため、専門の労務ソフトが必要になり、社労士や税理士などの外部の専門家に丸ごと委託している会社も多い。
後半の集計・計算や法定調書の作成については、専門家向けのソフトはかなり昔から存在していたし、一定規模以上の企業では社内でソフトを購入して年末調整の計算や法定調書の作成を行ってきた。しかし、従業員向けの前半部分については紙でのやりとりがずっと続いてきたため、効率化されることはなく放置されてきたが、SaaSが普及する中でペーパーレス年末調整という解決策がようやく提示された形だ。
コロナ禍で出社を制限している企業も多く、在宅勤務をする人も増えている。この環境下で、従来の方法で年末調整の書類を配布し、回収しようと思うと、郵送するか出社してもらうしかない。従業員、労務担当者双方にとってペーパーレス年末調整はメリットしかない仕組みであり、このタイミングで導入ができない企業はデジタル化についてかなり消極的だといえるだろう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を至るところで聞くようになったが、経営陣が本気でDXに取り組むつもりかどうかが「年末調整がペーパーレスかどうか」で分かるといっても過言ではない。デジタルシフトができない企業は生産性が上がらずに確実に衰退していく。年末調整すらもデジタル化できない企業は、従業員から選ばれない──という価値観が、そんなに遠くない将来に一般的になるのではないかと筆者は考えている。
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