トヨタ、ホンダ、スバル、日産が減産 自動車用半導体がひっ迫した3つの理由:<新連載>高根英幸「クルマのミライ」(5/5 ページ)
世界中の自動車生産工場が新型コロナウイルスに翻弄されている。2020年後半に急速に業績を回復させたメーカーが多い一方で、ここへきて再び生産を調整しなければならない状況に追い込まれている。その理由となっているのが、半導体部品の不足だ。
「産業の米」をどう確保するか
日本は食料自給率が低いものの、コメだけはほぼ100%を維持し続けている。半導体は、ほとんどの工業製品に必要なことから「産業のコメ」とも呼ばれるが、前述のように半導体製造を自前で行うのは、いろいろとハードルが高い。
電子部品の最終組み立てを請け負っている中国でさえ、内製率は15%程度に過ぎないのである。内製率を向上させる目標を掲げていながら、10年経ってもほとんど伸びていないのは、電子部品の生産量自体が上がっていることと、より専門性を求められている傾向が影響しているのだろう。
TSMCは自動車向け半導体の生産量を増やすべく、生産ラインの増強などを進めているが、それでも需要に応えられるのは5月になってからだといわれている。「そんな悠長なことは言ってられない」と怒り心頭の購買担当、生産管理担当もいることだろう。ファウンドリー頼みの半導体市場に、今になって恨み節を言っても始まらない。現状の問題をどう解決していくか、それはやはり国内の製造業を利用するしかない。
日本にはスーパーコンピュータで世界一の性能を誇る富岳(ふがく)がある。この技術力に加え、半導体の製造装置や素材の生産では、日本は未だにトップレベルの技術と生産能力を有している。
クルマに使われるマイコンの数を減らし、HPC(ハイパフォーマンスコンピュータ=高性能なコンピュータユニット)によって複雑な処理を一気に行なうことを考えているティアー1も存在する。そこで必要になるのがSoC(システムオンチップ=CPUに加えGPUや周辺回路の部品まで一体化した基盤に近いチップ)である。
クルマに使われる半導体すべてをカバーするのではなく、SoCに絞って一定数を生産することで、半導体の需要を補うまでにはいかなくても、ファウンドリーに対して牽制(けんせい)することができるのではないだろうか。自動車メーカーが連携を組み、ルネサスやキオクシア(前東芝メモリ)と一緒に先端プロセスの生産拠点を立ち上げるなど、国内でもある程度の供給を賄えるようするのだ。
歩留まりの問題はあるものの、SoCであれば生産規模をファウンダリーのように巨大にまでしなくても採算ベースには乗れる可能性は高い。
これから電動化を進めるにあたり、この課題は乗り越えなくてはいけない壁だ。なぜならリチウムイオンバッテリーも同じ状況になることが考えられるからだ。すでに生産中の製品を、部品の枯渇によって減産しなければならないのは自動車メーカーにとって、とてつもない損失に値するからである。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行なう「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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