コラム
焼き肉業態で「非正規差別」? 批判記事を巡り、ワタミが抗議した「論拠」とは:「効率化で非正規切り」は本当か(2/4 ページ)
コロナ禍で焼き肉業態へ業態転換を進めるワタミだが、近頃「非正規差別」をしているとの批判記事が公開された。これを受けてワタミ側は抗議文書を発表したが、その根拠は? 取材で見えてきた事実とは。
ワタミは「非正規切り」をしているのか
当該記事の趣旨は次のようなものだ。
- 居酒屋を焼肉店に転換することで、必死の思いで従業員の雇用を守ろうとしているという「美談」が語られていたが、実際は配膳ロボットを導入することでアルバイトやパートタイム労働者の雇用契約を大量に打ち切り、雇い止めにして、会社から放り出すということにほかならない
- 「まずは社員を守りたい」という経営者の発言は、これまでアルバイトやパートタイム労働者に頼って会社を成長させてきたことに配慮がない「非正規差別」である
- 20年以上前の給与メッセージからも、ワタミは非正規雇用労働者に対して「やりがい」をもたせることで、時給以上の働きをさせるように奨励してきたことがうかがえる
- ワタミを解雇され、貧困状態になったり、大学を退学に追いやられたりする学生もいるかもしれない。ワタミは、国の政策を活用して、ワタミのために働いてきた非正規の雇用を守ることこそが、会社に貢献してきた従業員に報いることなのではないだろうか
なるほど、これらの指摘が事実であれば、報道された美談とは程遠い「コロナ禍のドサクサに紛れた非正規切り捨て」である。これは非難されても致し方ないと考えていたところ、今度はワタミ側から報道内容を否定するリリースが出された。
リリースでは「事実関係と異なる記事を掲載され続けることは、多くの皆様に誤解を与える」として、当該記事が掲載されたニュースサイトに対し、ワタミが抗議文を送付したことが記されている。
筆者は、ワタミがブラック批判にさらされていた13年前後、ワタミを批判する側の筆頭のような立場にいた。しかし、同社のその後の変革と改善を目の当たりにし、現在はワタミに対するスタンスもやや変わってきている。これまでの同社が実現してきた労働環境改善の経緯を本連載で紹介してきたこともあり、本件報道について筆者は強い関心を抱いた。そこで早速同社へ取材した結果、ワタミ側が当該記事に対して抗議に至った論拠が次の通り明らかになった。元記事で批判された点と対比する形で検証していこう。
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