米ゲームストップの暴騰・暴落劇 裏側で親たちに利用されるジュニアNISAの惨状:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
ここ1カ月で20倍近い急騰を遂げた米国のゲームソフト小売大手チェーン「ゲームストップ」の株価が暴落している。この銘柄は、ジュニアNISA口座を使って“ギャンブル”にも使われたようだ。
証券会社ロビンフッドが売買を停止した理由
しかし、このような個人投資家の逆襲は思いもよらない形で“溶け合い”となる。きっかけは、先月28日に米大手証券各社が、ゲームストップの株式や関連するオプション取引等を制限したことによる。
本来、米国における金融商品取引制度下では、証券取引には日本と同じく約定日から精算までに2日(T+2)のタイムラグがある。このラグの間に精算ができないリスクに対応するため、保証金の差し入れが求められる。顧客資産と分別管理されている資金の中で保証金を工面する必要性があるため、顧客がゲームストップを買えたからといって保証金が充当できるとは限らない。今回、ロビンフッドをはじめとした証券各社が、ゲームストップ株式の購入を停止した措置の裏には、そのような財務的側面の判断が入ったことが大きい。
しかし、この対応は個人投資家に誤ったメッセージを提示してしまった。新規の取引が制限されるということは、空売りを行っているメルビンキャピタルのような強者を保護する対応にもなってしまい、後続の買いを期待して参入した買い手の個人投資家にとっては、マーケットに介入する余地がないはずの証券会社によって、後続が強制的に排除された形になるからだ。
その結果、小規模なものでも数十万人、大規模なものでは1400万人にも登るコミュニティで「次のゲームストップ」を探る動きも出ており、その対象は株式にとどまらずDOGEコインといった仮想通貨などにも及んでいる。個人投資家 vs. 機関投資家という対立構造が、幅広い分野で投資家を巻き込んでくる可能性があり、注意が必要だ。
ジュニアNISA「廃止」、でも本質は変わらない
ジュニアNISAという長期投資制度を使ってゲームストップを購入した親世代は、「値上がり率ランキング」などに着目して資金を投じたとみられる。しかし、ランキングの裏付けは明らかに長期投資に馴染(なじ)まない。
ジュニアNISA を巡っては、現実としてギャンブル同然の銘柄に子供のための資金が投じられてしまうという問題点がたびたび指摘されていた。20年の1月には、ジュニアNISAで,
日経平均が下落すればもうかり、上昇すれば損をする特殊な金融商品である「NEXT FUNDS 日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場頭身」が SBI証券の買付額ランキング1位になったことも物議を醸した。
この銘柄は、その後のコロナショックで一時的に急騰したものの、ジュニアNISAの制度上子供が18歳になるまで非課税の恩恵を受けた状態で引き出せない縛りがある。したがって、一時的にプラスになったとしても、長期ではマイナスになる可能性が非常に高いハイリスクな銘柄はそもそもジュニアNISAの運用対象たり得ない。
そんな問題点が多く指摘されてきたジュニアNISAも、実は23年末で廃止されることになった。ただし、今回指摘した問題点の本質はジュニアNISAの存否によらないはずだ。
親世代の金融リテラシーが醸成されなければ、別の口座で同じことが起きるだけである。自身の資産や後世に残すための資金を運用するのであれば、単純な値上がり率ランキング上位から買うのではなく、なぜその銘柄がランキング上位に入っているかという背景を調べることがまず求められる。制度設計の観点からいえば、非課税口座のような道具そのものよりも、その“使い方”を浸透させる必要性が高まっているといえる。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
Twitterはこちら
関連記事
- “大赤字”日産が、契約社員の正社員化に踏み切ったワケ 期間工は対象外
日産自動車は同社の拠点で雇用する事務職約800人の契約社員を、原則全員正社員として登用することを決定したという。日産が契約社員の正社員化に踏み切った背景には、どんな要因が隠れているのだろうか。 - 3.11上回る25倍の電気代高騰、“市場連動契約"の落とし穴
新電力の「市場連動型契約」に加入した世帯で電気料金が急増。ハチドリ電力では、電力価格の異常高騰分に関してはハチドリ電力側が肩代わりして負担し、ダイレクトパワーでは料金の割引に直接言及しなかったかわりに、2000円の解約手数料を無料とし、自社から顧客を切り替えるよう促している。 - 2021年は「呪術廻戦」が“ネクスト鬼滅” 「〇〇の呼吸」はもう時代遅れに?
若年層の関心について検討を深めると、2021年は鬼滅の刃でよく用いられた「○○の呼吸」や「全集中」といったワードが、「領域展開」という決めゼリフに置き換えられつつあることが分かった。今回は、「領域展開」という“謎の単語”の理解を深め、21年のトレンドを確認したい。 - NISA制度が税制改正で超変化 次の争点は「株とFX」の損益通算?
自民党がまとめた2020年度税制改正大綱では、NISA周りの制度が大きく変わることが明らかとなった。今回は、NISAをはじめとした金融商品取引をめぐる制度改正が、資産運用にどのような影響をもたらすかを確認していこう。 - “株価と経済の乖離”は時代遅れ? コロナ以前まで回復してきている経済
2万8000円を超え連日バブル後最高値を更新する日経平均、過去最高値を更新し続ける米NYダウ平均株価など、株高が続いている。これに対して、「経済と乖離(かいり)した株高」と呼ぶ人もいるが、果たしてどうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.