コロナワクチン、有効率90%超えの真の意味:専門家のイロメガネ(4/5 ページ)
コロナ禍が続く状況で期待されているワクチンだが、不安と期待が入り混じった状態で正確な情報を得られず困っている人も多いだろう。医薬品の開発業界で長く働く薬剤師の立場から、有効率90%のワクチンが本当に救世主になるのか、改めて考えてみたい。
安全性と有効性両方が伴ってこそ、優れたワクチンである
今回のワクチンでは懸念される点は2つある。
1点目は観察期間の短さだ。通常、何らかの副反応が現れるのはワクチン接種から2カ月以内とされている。臨床試験で観察した期間はファイザーで28日。この間に重篤な副反応がなかったことは安全性を示した1つの結果ではある。
しかし、現時点では分からないことも非常に多い。実際にワクチンの効果がどのくらいの期間続くのか、そして、1年後、5年後、10年後、本当に安全なのかは現時点では全く分かっていないまま、これから多くの人に投与されることになる。
2点目は、このワクチンがいずれも遺伝子組み換えであることだ。ワクチンが他の医薬品と決定的に違うのは、健康で不特定多数の人に接種することだ。したがってより高い安全性が求められる。これまで使用経験のない遺伝子組み換えワクチンであればなおさらだ。
遺伝子組み換えワクチンの開発に関する研究では、以下のような報告もある。
「現時点では組み換えウイルスワクチンの本邦における承認事例はなく、その安全性や有効性の評価方法について従来の指針や通知を適用することができない部分も多い。」
「開発が進められている組み換えウイルスワクチンは、その高い有効性が期待される一方で、新生児、妊婦及び免疫抑制状態の患者等へ接種された場合の安全性は従来のワクチンとは大きく異なる可能性がある。」
- 参照:平成 29 年度 厚生労働行政推進調査事業「異種抗原を発現する組換え生ワクチンの開発における品質/安全性評価の ありかたに関する研究」総合報告書 2018年10月17日
可能性は低いものの、生殖細胞に組み換えされた遺伝子が取り込まれた場合、遺伝子が改変される可能性も否定できない。ICH(医薬品規制調和国際会議)でも、生殖細胞へ遺伝子組み込みリスクを最小にするべきであるとされている。
参考:事務連絡 平成27年6月23日 各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課御中 厚生労働省医薬
通常の医薬品でも、妊産婦の使用例については注意深く検討されるが、新型コロナワクチンについては妊産婦はもちろん、次世代までを視野に入れた長期の安全性が検討されるべきだ。
また、医薬品医療機器総合機構(医薬品を承認・審査する組織)によれば、「感染症予防ワクチンでは、生殖発生毒性試験が実施されなくても妊娠可能な女性を組み入れた臨床試験を開始することが可能であるが、その場合、被験者に対して胚(はい)・胎児へのリスクが確定されていないことを伝達した上で、妊娠を回避する十分な予防措置が必要である」とある。
今回、優先的に接種される医療従事者には女性も多い。妊婦が発症した場合の重症化や胎児への影響が出る恐れがある一方で、ワクチン接種による胎児へのリスクも無いとは現時点では言い切れない。両方をきちんと説明し、各々が接種するかどうかを選択できることが大切だと考える。有効率90%超えという結果だけで判断せず、国内での臨床試験で、安全性と有効性を確認されることを願う。
参考 令和 2 年 9 月 2 日 医薬品医療機器総合機構 ワクチン等審査部 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの評価に関する考え方
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