コロナワクチン、有効率90%超えの真の意味:専門家のイロメガネ(5/5 ページ)
コロナ禍が続く状況で期待されているワクチンだが、不安と期待が入り混じった状態で正確な情報を得られず困っている人も多いだろう。医薬品の開発業界で長く働く薬剤師の立場から、有効率90%のワクチンが本当に救世主になるのか、改めて考えてみたい。
正しい情報と慎重な判断を
有効率90%超えの新型コロナワクチンが短期間のうちにできたこと自体は、素晴らしいことだ。例えばインフルエンザワクチンの有効率は一般的に50%程度であることを考えると、確かに高い有効率である。
ただ、この数字だけで優れたワクチンだと安心するのは危険だ。安全性については未知数であり、従来型とは違う遺伝子組み換えワクチンであることはすでに説明した通りだ。
通常、ワクチンの開発には長い年月を要する。候補となる物質を探し出すところから、少なくとも10年以上を要することがほとんどだ。完成までの期間が短いのも遺伝子組み換えワクチンの大きな特徴のひとつである。世界初の遺伝子ワクチンの登場は、バイオテクノロジーが新たな段階に入ったことの象徴でもある。
コロナワクチンに限らず、多くの医薬品はボランティアとして臨床試験に参加する人がいるおかげで開発され、実際に使えるようになる。世界規模で遺伝子組み換えワクチンの接種が行われることでこれから新たに分かることもあるだろう。
新型コロナウイルスのワクチンについては、未知の部分をすべて解消してから接種すべき、というのは現実的ではない。未曾有(みぞう)のパンデミックという状況では見切り発車せざるを得ない状況もある。筆者はワクチンは危ないから打たない方が良いと主張をしたいわけではなく、安全性について慎重に判断をすべきというスタンスだ。
そもそも、ワクチンの主な目的は、感染予防、発症予防、重症化予防、集団免疫効果である。このうち、実際に治験で確認できる効果は、発症予防と重症化予防だ。集団免疫効果とは、「接種した人が増えると、接種していない人でも発症者が減少する」ことだが、これも大人数での接種をしてみないことには、どのような結果になるかは現段階では分からない。
ワクチンは期待される一方で不安を感じている人も多い。ワクチンに対する不安を封じ込めないためにも、正確な情報提供が求められる。
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