なぜ会社は森喜朗氏のような「調整老人」がいないと、仕事が進まないのか:スピン経済の歩き方(4/5 ページ)
女性蔑視発言で国際的なバッシングを受け、引退に追い込まれていた森喜朗氏。周囲からの「辞めないでコール」によって不死鳥のごとくカムバックを果たしたが、なぜ会社や組織のトップに彼のような「調整老人」がたくさんいるのか。その背景を分析してみると……。
「余人をもって代え難い」という言葉の意味
これは言われのない老人差別とかではなく、実際にさまざまな問題があったからだということは、明治時代、住友財閥で総理事を務めて発展させ、「企業の社会的責任」の先駆者とも言われる伊庭貞剛の言葉がすべて物語っている。57歳で一線から身を引き、後任に43歳の鈴木馬左也という若いリーダーを抜てきした伊庭は『少壮と老成』の中で、日本企業の構造的な問題をズバリ言い当てている。
「事業の進歩発達に最も害するものは、青年の過失ではなくて、老人の跋扈(ばっこ)である」(注:ルビは編集部が追記、実業之日本 明治37年2月15日)
では、なぜ日本の近代化を進めた偉大な先人たちが、これほど「老人の跋扈」には気をつけろ、と苦言を呈していたにもかかわらず、戦後日本は「世界一の調整老人大国」になってしまったのか。
「そりゃ少子高齢化が進んだからだろ」と思う人もいるだろうが、実はそうではない。最大の犯人は「政治」だ。日本の労働人口が高齢化して、あらゆる業界でシニア率が高くなっていくはるか前から、日本の政治は「老人ばかり」だという批判がなされ、定年制が議論されてきた。しかし、それが見事にウヤムヤにされてきた歴史的事実がある。
そこで反対派をねじ伏せる決まり文句が「余人をもって代え難い」である。選挙のたびに若手から引退しろと文句が上がるが、議席を一つでも多く欲しい党本部は、「地元で高齢者から絶大な支持を受ける高齢候補者」を特例扱いで公認を与える。海外で30代や40代の企業リーダーが次々と生まれる中で、いまだに日本が「おじいちゃん内閣」なのは、そういうグダグダの定年制を続けてきた結果なのだ。
ここまでいえば、もうお分かりだろう、実は森氏を擁護する意見は、本当に森氏が「余人をもって代え難い人材」であるから出てきたわけではないのだ。
「余人をもって代え難い」という言葉は、日本に数多く存在していた「おじいちゃん政治家」が「もうヨボヨボなんだからいい加減引退しろ」という世論が巻き上がるたびに、それをウヤムヤにしてきた「魔法の言葉」である。その伝統を踏襲しているだけに過ぎないのだ。
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