なぜ会社は森喜朗氏のような「調整老人」がいないと、仕事が進まないのか:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
女性蔑視発言で国際的なバッシングを受け、引退に追い込まれていた森喜朗氏。周囲からの「辞めないでコール」によって不死鳥のごとくカムバックを果たしたが、なぜ会社や組織のトップに彼のような「調整老人」がたくさんいるのか。その背景を分析してみると……。
企業のトップはロマンスグレーばかり
想像していただきたい、政界には二階氏や麻生氏という80歳オーバーの調整老人が現役バリバリで活躍をしている。こういう貫禄十分のおじいちゃん政治家と、40代や50代のリーダーが対等に向き合って利権を調整できるだろうか。
できるわけがない。目には目をではないが、おじいちゃんには、おじいちゃんをぶつけようとなるのが一番だ。つまり、政治に合わせる形で、民間の調整役も高齢化していったと考えるべきなのだ。
そう考えると、経団連だ、日本商工会議所だ、日本医師会だ、という各業界の利権を調整する団体のトップがみんなロマンスグレーのおじいちゃんばかりなのも納得だ。
現在、日本は「人生100年時代」を掲げてシニア人材の活用に力を入れている。それはつまり調整老人がこれまで以上に跋扈する国になるということでもある。
実際、森氏がいないと実現不可能だという東京五輪を見るといい。建前としては、若いアスリートたちのためだとか、世界平和のためだと言いながら、実はそれよりも、調整老人が誰からも文句が出ないようにうまく利権を分配することのほうが大事だと頭を悩ましている。
そんな若者搾取の構造は、若者を低賃金でこき使いながら、老人ばかりが社会保障を優遇されている現在の日本社会そのものである。若者たちが「森氏あっての東京五輪」に強い拒否反応を示しているのは、老人支配大国ニッポンへのささやかな抵抗なのだ。
最近、日本企業も「これからは若いリーダーだ」とか「女性活躍だ」と言って、40〜50代を社長に抜てきしたり、女性を経営陣に加えたりするケースが増えている。が、ぶっちゃけ組織の体質はほとんど変わっていない。
建前的に世界の潮流に合わせているが、実はその裏でこれまで通りに調整老人たちが現役バリバリでリーダーシップを発揮しているからだ。これを可能にしているのは、「相談役」や「顧問」という日本独自の長老支配システムだ。
「老人の跋扈」を食い止めるには、このような“調整老人供給システム”を壊すしかない。「あんなジジイは老害だ、早く引退しろ」といった高齢者差別を防ぐためにも、社会構造の問題点にこそ目を向けるべきだ。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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