「テレワーク7割」どころか、紙業務・サービス残業が横行の霞が関官僚 「与野党合意」で民間企業の模範となれるか?:20代総合職の3割が「過労死ライン」超え(2/4 ページ)
政府が要請する「テレワーク7割」だが、そもそも霞が関で働く官僚が達成できていない。それどころか、民間企業未満の過酷な働き方が昨今明らかになっている。その元凶ともいえる国会対応を巡る与野党合意で、民間企業の模範へと変わっていけるのだろうか。
サービス残業が横行する霞が関
そして同年9月には河野太郎氏が行政改革担当大臣に就任し、改革を積極的に推進し始めている。記者会見の場で河野氏が「霞が関のブラックなところを是正しないと人材が集まらない」と危機意識を表明したのも前代未聞のことだ。
先述の、内閣人事局による在庁時間調査も河野氏の指示によるものだが、これまた実に画期的だった。従前、人事院による「残業時間」調査は行われていたものの、その対象はあくまで上司の命令で残業した超過勤務を含む勤務時間であった。人事院の公表では、「官僚の残業時間は年間360時間程度」であり、「超過勤務の上限である100時間を超える者はいない」という建前が貫かれていたのである。
一方で今般の人事局調査においては、霞が関全府省庁の課長級以下約5万人を対象に、正規の就業時間外に職場にいた「在庁時間」を確認した。すると、残業上限である100時間を超えた職員は10・11月の各月とも3000人近くいたことが判明し、20代総合職で過労死ラインとされる月80時間を超えた人は両月とも3割以上にのぼっていたことまで明らかになったのだ。彼らは皆、これまで「残業命令は出していない」という建前で、サービス残業を強いられていた人たちである。それほどの長時間労働が常態化していては、若手の大量離職も避けられないであろう。
元凶は「国会対応」
これほどまでに過酷な長時間労働がまん延している原因はさまざまだが、最大の元凶は「国会対応」、すなわち「国会議員の質問通告への答弁作成作業」にあるといわれている。これは国会期間中、質問を受ける各省庁の大臣たちの答弁を作成するという重要な業務なのだが、ここにはまさに霞が関の前時代的な働き方が集約されているのだ。
例えば、議員から質問を事前に聞き取る「質問取り」や、答弁者への「政策説明」には対面が求められ、コロナ下で政府が企業に在宅勤務を求める状況でも、官僚が議員事務所へ出向くことが多い。また、本来であれば「質問通告は2日前まで」という決まりがあるが、実際に議員からの質問通告が出そろうのは平均して質問前日の午後8時台、各省庁への割り振りが確定するのが午後10時台(いずれも内閣人事局発表「国会に関する業務の調査」より)で、それから答弁作成が始まる。
また、質問事項が「コロナ対策について」など漠然としている場合、関連する担当部局のメンバーは全員待機させられる。待機解除となるのは終電以降ということも多く、官僚にとっては徹夜必至の作業となる。
ここからの作業も一筋縄ではいかない。答弁は政府の方針として扱われ、議事録にも残るため、担当官僚は関連法令を調べ上げ、一つの文言であってもミスのないように入念に文書を作成しなければならない。加えて、議員によってはフォントを大きくしたり、重要箇所にマーカーを引くなどの加工を施したりする必要があるし、本会議ではタブレット使用禁止のため、紙で大量に印刷した資料を夜のうちに国会に届けることまで必要なのだ。最後に付け加えるならば、通信手段の多くはファクスである。
官僚の非効率な働き方、影響はわれわれの生活にも
ITが発達した現代にありながら、信じられないほど非効率な働き方や慣習が温存されていることにあらためて驚かされるが、それによって困るのは官僚だけにとどまらない。われわれ国民の生活にもネガティブな影響が及ぶリスクがあるのだ。
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