組織にはびこる“森喜朗”的価値観 女性は「よそ者」であり続けるのか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
「女性がいる会議が長い」という発言は森喜朗氏に限らず、日本企業で度々耳にする。忖度で動く「タテ社会」の組織にとって、自由に発言する女性は“よそ者”。多数派が権力を行使するために排除する。この構造を変えるためには「数の力」が必要不可欠だ。
タテ社会・日本を変えるのは「数の力」
日本企業はいまだに女性管理職の割合が少なく、前政権で掲げられた「リーダー的な立場の女性を3割に!」という目標は、努力目標にすり替わりました。
冒頭で、「森氏という“木”ばかりを見て、日本という本当の“森”を見ていない」と書いた通り、日本全体を見渡せば、「今、クオータ制の議論を進めなくて、いつするのか?」という意見が出てもいいはずです。なのに、その声は聞こえてきません。
「大森、中森、小森」が続いていく社会でホントにいいのか? 女性問題に限ったことではありません。森氏の発言の「女性」の部分を、「外国人」に置き換えても、悲しいかな文章は成立するのです。
実際に、「タテ社会日本」の排除はこんな数字にも表れています。
米国の大企業の「生え抜き社長」の割合は27%なのに対し、日本では82%(ボストンコンサルティンググループ調べ)。欧米企業の取締役は過半数が経営の執行に関わっていない独立社外取締役であるのに対し、日本企業の取締役は、社長をはじめ、多くが社内で昇進したメンバーで占められている。
やれ「グローバル化だ!」、それ「グローバルスタンダードだ!」と威勢のいいスローガンを掲げても、「タテ社会の人間関係」は維持されている。外からは見えない人と人のつながり方は、最も変わりにくい部分だからこそ、「数」で変えるしかない。日本の深い闇に対峙するには、「数の力」が必要不可欠です。
そういえば2014年にスコットランド・アバディーン大学が、マリアナ海溝の1万545メートルの深海で発見した新種は、頭が大きく、目は小さく、漫画の犬のような奇妙な鼻をし、うろこがなく、非常にはかなげで、ティッシュペーパーのようだったと報告しています。
脱線してしまいしたが、まぁ、そういうことです(何が言いたいかはご想像にお任せします)。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。
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