なぜ地場証券がIFAへ業態転換? 進む金融の水平分業(2/2 ページ)
証券会社の中には「地場証券」と呼ばれる存在がある。従業員は十数人から多くても50人。地域に密着して資産運用と営むパートナーというべき存在だ。しかし、地銀同様にその経営環境は悪化してきており、再編の動きが始まっている。
バックオフィス、ミドルオフィスを証券ジャパンに委託
IFAへの業態転換にあたり、バックおよびミドルオフィス業務は以前から株式取次業務を委託していた証券ジャパンが受け持った。みずからの強みである、地元密着営業、顧客からの信頼を生かせるフロント業務に特化した形だ。
「これまで国内上場株と5〜6本の投信しか扱えていなかったが、証券ジャパンの取り扱う、国債、外国株、数百本の投信などを扱えるようになった。ノルマ達成営業や、品ぞろえが劣るなどのデメリットを捨て去ることができた」(山田氏)
この動きは、必ずしもダウンサイジングによる業務縮小ではない。日本資産運用基盤グループの大原啓一社長は、「本質は新たな付加価値の創造だ」と指摘する。
2020年11月に、事業譲渡先を探していた京都のみやこ証券は、証券ジャパン経由で、フロントオフィス業務をだいとく投資ビレッジに継承することを決めた。だいとく投資ビレッジは京都支店を作り、営業人員の一部を引き継いで運営している。一方で、口座・取引顧客管理業務は証券ジャパンが事業譲渡を受けた。ミドル・バック業務を外部に出す一方で、強みであるフロント業務については、他社を吸収して拡大する戦略をだいとく投資ビレッジはとった。
自前主義からの脱却なるか
フロント、ミドル、バックのそれぞれの業務をすべて自社で持つ自前主義から、業務を分担する水平分業の動きが金融業でも始まっている。フロントに特化することのメリットは、コスト削減だけではないと山田氏は話す。
「高コストを背景としたノルマ達成のために、犠牲にしなくてはいけないものが出てきていた。それは顧客であり、営業担当もそれを気に病んでいた。現在は、『この商品を売ってきてほしい』と営業にすることを、一切やっていない」(山田氏)
IFAならば複数の証券会社と業務委託契約を結べる。だいとく投資ビレッジも、証券ジャパンのほか、SBI証券、あかつき証券(東京都中央区)とも契約し、保険も複数の保険会社の商品を取り扱っている。
「証券会社としての営業の時代は、自社の商品を売ることしかできなかったが、今は、商品の性格やサービスの内容、手数料などを比較して、顧客にとって有益となる金融機関や商品を選定できるようになった」(山田氏)
地銀や地場証券が、地元とのつながりの強みを生かしフロント業務にフォーカスする一方で、ミドル・バック業務を得意とする証券会社はプラットフォーマーとしての立ち位置を強めようと動いている。山陰合同銀行に証券プラットフォームを提供する野村證券や、複数の地銀に出資しつつ証券プラットフォームを担おうとするSBIホールディングスの動きが代表例だ。
この流れが加速する一方で、なかなか自前主義から脱却できない地銀や地場証券もある。「銀行も証券会社も、いまだに縦割りの部分が残っていて、壁を作って守ろう、守ろうとしている。顧客が取られてしまうという恐怖から、自前でやろうという思いがあるのではないか」(山田氏)
自前主義から水平分業体制への移行はなるか。少なくとも、管理コストの増大、顧客ニーズの多様化、システム対応コストの増大など、自前ですべてに対応するのが難しくなってきていることは事実だ。さらに、真に顧客の利益のために動くには、自前では対応しきれなくなってきている。
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