【AI insideの衝撃 後編】SaaS企業からAIプラットフォーマーへ(4/5 ページ)
今期40億円を超える売上を見込み、250%を超える売上高成長率を達成しながらも「SaaSでの展開はあくまで通過点」と、AI insideの渡久地CEOは次の展開を見据えています。後編でも「企業データが使えるノート」のアナリストが、引き続き渡久地氏にインタビューを行いながら「GAFAが競合になり得る」というポテンシャルを持つ、AIプラットフォーマーとしての可能性を探っていきます。
AIプラットフォームにおける市場環境をどう見るか
「ユーザーで設定・利用可能なAIツールのプラットフォーム化」という独自性を打ち出す中で、過熱するAIビジネスにおける市場環境、そしてその中での勝ち筋を代表の渡久地氏はどのように捉えているのでしょうか。
―― AIプラットフォーム化の市場をどう見ているか?
渡久地氏 AIに特化した目立ったマーケットプレイスはまだ例がなく、独自性の高い構想だと考えています。
AI市場全体は世界で80兆円規模ともいわれていますが、調査方法、捉え方により異なります。それでも全ての産業でAI利用が進む中で、兆円単位の市場であることは確かです。私たちはそういった分野を狙っていきたいとお伝えをしています。
―― グローバルIT企業もAI分野での投資が増えている中で、競争環境や差別化は?
渡久地氏 (AIの分野において)スタートアップも増えますし、GAFA、BATといったITジャイアントも競合になり得ると思います。
我々としてはターゲットユーザーや価格、課金のポイントで差別化を考えています。例えば、AIを作るツールで現在提供されている多くのサービスはデベロッパー向けです。現在、アマゾン、マイクロソフトが提供しているのも、エンジニア、データサイエンティスト向けのサービスです。AIが身近になったといえど、その開発と運用は現場レベルでは完結しません。
私たちが提供するAIプラットフォームではソースコードを書く場所は一か所もなく、例示したゴミ処理場のようにユーザー完結する世界を目指しています。
―――昨年ノーコードが注目を集めましたが、そのような感覚でAIが作れる?
渡久地氏 スマホにアプリケーションをインストールするぐらいの感覚です。
何かツールを導入しようとする際に、「現場の課題がよく分かっている人vs.現場にはいないけど作れる人」という構図ができてしまうことがありますが、そうではなくて、AIを推進したいとか思っている人がそのまま作れてしまう、そんな文化を醸成できればよいと考えています。
最近、米国でAIを利用している企業は20%という報道がありましたが、日本ではもっと少ないと想定されますので、わたしたちが提供するサービスで、この利用比率を高めていきます。
――― IaaSを含めたビジネスに取り組むうえで、資本力勝負、投資競争にはならないのか?
渡久地氏 現在、AI insideではAIの動作を最適化させる環境として、エッジコンピュータ「AI inside Cube」を提供しています。IaaS面については、AIを利用する上で最適な環境を提供することが目的となり、クラウド、エッジコンピューティング双方でのサービスを届けていきます。
IaaSというと、データセンターの建物やサーバなど重たいビジネスという見方が一般的です。一方で既存の一極集中型のデータセンターではなく、ローカルのマイクロデータセンターをつなぐ分散型データセンターを構築していこうと考えています。
あくまでAIが最適に動くことを目的としていますので、そこでプロフィットを追い求めず、また既存のデータセンターのような資本が必要とされないサービスをイメージしています。
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