21卒が定年退職するころ、労働市場はどうなる? データから考える、「定年」の在り方:「仕事卒業日」からキャリアを逆算する(4/5 ページ)
コロナ禍のさなか、就職活動をした2021年卒の学生たちが新入社員として働き始める。彼らが定年を迎えるころ、労働市場はどうなっているのだろうか。そのころ、定年という概念はどうなっているのだろうか。
定年制は、企業への救済措置という面も
定年制度は、日本特有の制度だといわれます。欧州では年金支給開始年齢との間を開けずに済む場合などに定年制を認めるケースもあるようですが、基本的に欧米では一定の年齢に達したことを理由に職を失うことは、年齢差別と見なされかねません。
それに対し、日本の場合は年功賃金の考え方が今も根強く残っています。長く在籍するだけで賃金が上昇し続ける仕組みだと、いずれ社員の能力向上と賃金上昇が比例しなくなります。結果、企業は在籍年数だけ長くて能力が伴わない高給取り社員を多数抱えることになりかねません。日本で定年制度が認められている背景には、年功賃金を導入する一方で、一定の年齢に達すれば合法的に雇用契約を解除できるという、企業への救済措置という面があるといえます。
43年後の未来においても、年功賃金を導入している企業は存在するかもしれません。しかし、既にさまざまな矛盾が露呈している仕組みだけに、恐らく主流にはなっていないように思います。年功賃金の考え方を採用しない企業が増えるほど、定年制度の必要性も薄れていくはずです。
また、他の理由からも、43年後の未来では定年制度がかなり形骸化している可能性があるように思います。
先ほど表で示したように、単純予測によると43年後の未来は今以上に慢性的な売り手市場になっています。少しでも労働力を確保したいと考えたとき、主婦層や外国人などとともに、企業としては労働意欲を持つシニア層もできる限り戦力化したいはずです。その傾向は今も既にありますが、43年後はさらに強くなっていると考えられます。定年など設けず、実力ある人ならいくつになっても雇用していたいと考える企業が、今以上に増えていてもおかしくありません。
また、将来推計人口を発表している国立社会保障・人口問題研究所は、人口に占める年代ごとの比率についても未来予測を公表しています。そのデータによると、総人口に占める65歳以上の比率は、2021年が29.1%であるのに対し、2064年は38.3%と10ポイント近くも上昇し、およそ4割に達します。逆に、現役世代と呼ばれる15〜64歳の生産年齢人口の比率は58.9%から51.5%へと7ポイント以上減少します。
よく、〇〇年には現役世代2人で65歳以上の世代1人を支えなければならない、といった数値を目にします。高齢化が進む一方で、現役世代を15〜64歳とする定義が同じままであれば、社会のバランスはどんどん歪になっていきます。
関連記事
- 東北新社・NTT・総務省のエリートたちは、なぜハイリスクでも高額接待を実行したのか
東北新社やNTTの官僚接待が波紋を呼んでいる。なぜ、エリート官僚はリスクの高い接待に応じたのか。解決のカギは「密室文化」にありそうだ - ブラックジョークでは済まない「ハロワ職員1万人雇い止め」問題 非正規雇用の「使い捨て」を解決するために求められるもの
ハローワーク職員の「雇い止め可能性」が一部新聞で報道され、話題になった。一部では非正規雇用を単なる「調整弁」や「使い捨て」としてしまっているケースもあるが、今後はそうした不本意型の非正規雇用を減らしていく必要がある。では、具体的に、どうすればいいのか。 - 「一律賃上げは非現実的」 経団連が弱音を吐き、かつての「勝ちパターン」も崩壊した今、働き手はどうするべきか
春闘が開始も、経団連は「一律賃上げは非現実的」と方針を示した。過去には終身雇用の維持にも厳しい姿勢を見せて波紋を呼んだ。過去の標準的勝ちパターンが崩壊しつつある今、働き手は希望を叶えるためにどうするべきか。 - 「定年延長」への対応方法 4月の高齢法改正で何が変わる?
70歳までの就業機会確保を定める、改正高年齢者雇用安定法(高齢法)の施行まで間もなくとなりました。今回の高齢法改正で何が変わるのか? 定年延長が義務化されるのか? 定年延長の効果は? など、よく聞かれる問いに答えます。 - 「70歳まで会社にしがみつく人」が結局、会社を弱体化させてしまうワケ
定年を引き上げるニュースが相次いでる。現行の60歳から65歳にする企業が増えてきているわけだが、筆者の窪田氏はこの動きに懸念を抱いている。「長く働くことができていいじゃないか」と思われたかもしれないが……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.