少しずつ見えて来たトヨタの未来都市「ウーブンシティ」:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
トヨタが実験都市「ウーブンシティ」の発表を行ったのは2020年1月のCES2020だ。ウーブンシティはさまざまな意味でまさに実験的な街である。そしてその面白さはいたずらにハードルを上げていないところにある。そもそもウーブンシティの基本構造はどうなっているのだろうか?
そしてこれら重要物資を運ぶ北前船が日本海を経由することから、日本海側の都市が大いに栄えたのである。背景としては、鎖国を強化するために、幕府が複数マストの船の建造を禁止したからで、そのため沖合を一気に帆走させて目的地を目指すような運用ができず、陸伝いにこまめに経由地に泊まりながら進むしかなかったからである。日本海都市の代表である金沢の絢爛(けんらん)な文化を支えたのもまた北前船であった。
逆に、三陸を経由して江戸へ入る海運ルートは当初あまり発展できなかった。というのも茨城県沖の鹿島灘は、北から南下する親潮と、西から東へ流れる黒潮がぶつかり合う難所で、こんな所で嵐にでも遭遇して、転覆を避けるために1本しかないマストを切り倒せば、房総沖で日本列島から離流する黒潮に乗せられてカリフォルニアまで運ばれてしまう。船乗りが命懸けの仕事だったのはそういう幕府の都合による規制があればこそで、いわば鎖国政策の人柱でもあった。海運会社に勤める友人に聞いた話では、21世紀の船であっても、条件が悪いと、あの辺りでは丸一日エンジンを全開で回して、1マイルしか進めないなどということがあるのだそうで、とにかく難所中の難所なのだ。
そんなわけで、太平洋回りの物流では、那珂湊あたりで馬に積み替えてから、霞ヶ浦で吃水の浅い高瀬舟に積み替え、利根川から隅田川に至る内陸の水運を用いた。
という長い話で何が言いたかったかと言えば、荷物が通るルート沿いに経済発展する街ができた。つまりその時代の物流手段こそが都市の発展の原動力であるという話である。
明治になって鉄道の敷設が進むと、東京-大阪を結ぶ東海道が人の往来だけでなく物流ルートとしても定着し始める。東京一の歓楽街であった隅田川沿いの浅草が地盤沈下し、それに代わって東海道側の鉄道駅を得た銀座が新たな中心として栄えていった。
オリンピックと時を同じくして、日本のモータリゼーションが進むと、今度は主要道路に面したエリアへと開発が進み、16号線などのロードサイド経済へと時代は移り変わっていったのだ。
そして今、コネクティッドによって、情報オリエンテッドな物流の時代が訪れようとしている。それはデジタルトランスフォーメーションの時代といってもいいのだが、その時代には、一体どんな街が発展していくのか? そういう壮大な実験を行うために作られる都市こそがウーブンシティなのである。
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