少しずつ見えて来たトヨタの未来都市「ウーブンシティ」:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
トヨタが実験都市「ウーブンシティ」の発表を行ったのは2020年1月のCES2020だ。ウーブンシティはさまざまな意味でまさに実験的な街である。そしてその面白さはいたずらにハードルを上げていないところにある。そもそもウーブンシティの基本構造はどうなっているのだろうか?
バーチャルとリアル
例えば情報だけなら別に場所はどこでも構わない。離島だろうが山脈の奥深くであろうがネット接続さえできればそれでいい。しかしながら物流にはリアルな接点が必要だ。衣食住という人の生活に必須の物資は、リアルがないと困る。電送データと3Dプリンターで米や衣服が送れるようにはならない。
コネクティッドで実現することは、情報伝達速度の向上と、複数のデータベースをマージして多様な選択肢の中から、最適なマッチングを選び出す精度と速度の向上だ。加えていえば、物流のオペレーションの効率化ということも大きい。現在トラックの貨物積載量は、トータルで50%といわれている。ポテンシャルから見れば、現在の倍量の貨物を輸送できるし、あるいは貨物量を基準に考えるのであれば、トラフィックを半分にすることも可能だ。それは当然速度の向上と供に、物流コストの低減に効くだろう。
現在のドライバー不足を前提にすれば、自動運転による配送といった省力化も喫緊の大きな課題である。ところが自動運転があらゆる状況で行えるようになるのはまだまだ先の事である。
例えば都内の交通量の多い交差点などでは、法律を厳密に守っていたら永遠に右折できない場所がたくさんある。歩行者が延々と渡り続け、対向車の切れ目は十分ではなく、それらにマッチした信号機のコントロールができていない。自動運転のAIにまさか「場合によっては法律を守らなくてもいい」などというプログラムは組めないし、違反で検挙された時、一体誰の責任なのかも紛糾(ふんきゅう)するだろう。
さて、そうなると、自動運転時代の物流改革を行うためには、移動の方法をある程度限定するしかなくなる。例えば、出荷用物流センターを高速道路のインターチェンジと直結し、一般道を介することなく本線に合流することができるようにする。高速道路の自動化なら、もう少しで実現できそうなところまで来ているからだ。自動運転車両か、過渡期においては先頭車にだけドライバーが乗り込み、電子的牽引(けんいん)によるカルガモ走行によって複数台のトラックを運行する。
そしてコネクティッドシティもまた、高速道路から直結した荷役ターミナルを備えるという形が現実的だろう。もちろん自動運転の技術が発展し、どんな場所でも自動走行できるようになればそれに越したことはないのだが、それでは実現が遠い未来になってしまう。
現実的な折り合いを考えれば、インフラ側でも自動運転し易い環境を用意して、双方に歩み寄る方がずっと早いのだ。
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