西武園ゆうえんちの準備は整った しかし、足りない要素が2つある:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/7 ページ)
西武園ゆうえんちが5月19日、「新しくて古い都市型エンターテイメント」として生まれ変わる。1960年代の商店街を中心に据え、海外から認知度の高い日本発キャラクターを登場させることで、従来の「鉄道沿線遊園地」から「日本型テーマパーク」へ進化を遂げる。しかし、沿線外に訴求するには「あと2つの要素」が必要だ。
西武園ゆうえんちの勃興と衰退
西武園ゆうえんちは戦後復興と特需景気に沸く1950年(昭和25年)に東村山文化園として開業した。当初の施設はウォーターシュート・おとぎ電車・飛行塔・ボート場・豆自動車だった。
翌年に隣接地にユネスコ村が開業した。このとき東村山文化園は西武園に改名し、おとぎ電車がユネスコ村まで延伸された。おとぎ電車は遊具だったけれど、後に鉄道免許を取得し、西武山口線となった。
ユネスコ村には「オランダ風車」「トーテムポール」など世界各国の建築の小型版が設置され、アイドルのデビューコンサートなどイベントも多く開催された。また、港区の井上馨邸にあった羅漢堂や大阪万博マレーシア館を移築するなど、文化資産の移設も行われた。
西武鉄道は多摩湖畔、狭山湖畔に2つの遊園地を持ち、両者は互いに競争、協調の関係だったようだ。西武園ゆうえんちは66年から遊戯施設を増やしていく。85年には大改装が行われ、遊戯施設のリニューアルが行われた。
一方、ユネスコ村は90年にいったん閉園し、93年に「ユネスコ村大恐竜探検館」として再開した。しかし、恐竜人気も落ち着き、利用者が最盛期の年間80万人超えから10年間で24万人へ減少した。折しも西武鉄道は経営再建の渦中にあり、2006年に営業を休止。現在は「ゆり園」が継続している。
ユネスコ村の閉園は西武園ゆうえんちとの競合もあったことだろう。また83年に開業した東京ディズニーランド、86年開業の日光江戸村、90年開業のサンリオビューロランドなど、バブル景気の過程で従来の遊園地ではなく「テーマパーク」業態が目立ってきた。これらの新興レジャー施設は明確なキャラクターを持ち、広範囲からキャラクターのファンを集客した。
西武鉄道路線図。西武園ゆうえんちは西武池袋線、西武新宿線の沿線の人々に対して、都心とは逆方向に出掛けてもらうために作られた。もともと村山湖(多摩湖)は観光地として魅力的で、多摩湖鉄道、西武鉄道(旧)、武蔵野鉄道が線路を延ばした。この3社が統合されて、それぞれ西武鉄道(現)の多摩湖線、西武園線、狭山線となった
これらに対して、西武園ゆうえんちなどの鉄道沿線遊園地は「テーマを持たず、どこにでもありそうな遊具を備えた施設」である。親会社の鉄道路線の乗客を増やすためのレジャー施設であればそれでも良かった。しかし、鉄道路線沿線の人々が他地域のテーマパークに流出すると、特徴のない鉄道沿線遊園地の人気は衰える。
それでも西武園ゆうえんちは健闘した。大観覧車、ループスクリューコースター、トリプル観覧車など大型アトラクションが揃った88年度に、バブル景気も相まって約194万人も集客した。
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