西武園ゆうえんちの準備は整った しかし、足りない要素が2つある:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/7 ページ)
西武園ゆうえんちが5月19日、「新しくて古い都市型エンターテイメント」として生まれ変わる。1960年代の商店街を中心に据え、海外から認知度の高い日本発キャラクターを登場させることで、従来の「鉄道沿線遊園地」から「日本型テーマパーク」へ進化を遂げる。しかし、沿線外に訴求するには「あと2つの要素」が必要だ。
では、ホテルについてはどうか。テーマパーク付近にはホテルが必要だ。鉄道沿線の人々は自宅から日帰りで遊びに行けるけれども、全国から、あるいは海外から訪れる人々には宿泊施設が必須である。
しかし今のところ多摩湖周辺には西武グループの「中国割烹旅館 掬水亭(きくすいてい)」のみ。西武園ゆうえんちの目の前にあるとはいえ、この旅館は多摩湖とその向こうの富士山を望み、穏やかに過ごしたい人向けの高級ホテルだ。21室しかなく、テーマパークホテルとしては利用しにくいだろう。
新しい西武園ゆうえんちには、もっと手軽に、ファミリーや若いグループが泊まれる気さくなホテルがほしい。東京ディズニーリゾートには直系で4つのホテル、提携ホテルとしてベイエリアなどに19のホテルがある。USJの周辺には提携オフィシャルホテルが8つ。提携ホテルとして大阪都心部に13のホテルが推奨されている。飯能のムーミンバレーパークは周辺にマロウドイン飯能があり、他のマロウドチェーンホテルとも提携住み。ムーミンルームが用意されている。西武鉄道グループの「プリンスホテルズ&リゾーツ」も提携している。
西武園ゆうえんちも「プリンスホテルズ&リゾーツ」と提携するだろう。新宿プリンスホテル、サンシャインシティプリンスホテルならば、電車のアクセスも便利だ。しかし、ゆうえんち付近に1つほしい。ゆうえんちの夜景を眺められる部屋やレストランバーがあれば楽しそうだ。
西武園ゆうえんちの商圏拡大のチャレンジには、グループ会社の西武鉄道とプリンスホテルの援護射撃が必要だ。遊園地の敷地の外の展開に期待したい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
関連記事
- 鉄道模型は「走らせる」に商機 好調なプラモデル市場、新たに生まれた“レジャー需要”
巣ごもりでプラモデルがブームに。鉄道模型の分野では、走らせる場を提供する「レンタルレイアウト」という業態が増えている。ビジネスとしては、空きビルが出やすい今、さらなる普及の可能性がある。「モノの消費」から「サービスの消費」へのシフトに注目だ。 - 「としまえん閉園」は寂しいけれど…… 鉄道会社にとって“遊園地”とは何か
東京都練馬区の遊園地「としまえん」が閉園し、跡地は大規模公園、一部にテーマパークができると報じられた。お別れは寂しいが、鉄道会社系遊園地の役割は大きく変わり、これまでにもたくさんの施設が閉園した。その跡地には、時代に合った街ができている。 - 「第2青函トンネル」実現の可能性は? “2階建て”構想の深度化に期待
2020年11月、「第2青函トンネル」構想の新案が発表された。2階建てで、上階に自動運転車専用道、下階に貨物鉄道用の単線を配置する案だ。鉄道部分は輸送力が足りるか。急勾配も気になる。だが、新トンネルは必要だ。設計の深度化を進めて実現に近づいてほしい。 - 中央快速線E233系にトイレ設置、なんのために?
JR東日本の中央線快速で、トイレの使用が可能になることをご存じだろうか。「通勤電車にトイレ?」と思われた人もいるかもしれないが、なぜトイレを導入するのか。その背景に迫る。 - 「EV化で30万人が仕事を失う」説は本当か
EVの普及によって雇用が30万人失われる――。2月、このような記事が話題になったが、この数字は本当なのか。ガソリン車と比べEVは部品点数が少ないので、部品メーカーが淘汰されるのはほぼ間違いないが、その一方で……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.