西武園ゆうえんちの準備は整った しかし、足りない要素が2つある:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/7 ページ)
西武園ゆうえんちが5月19日、「新しくて古い都市型エンターテイメント」として生まれ変わる。1960年代の商店街を中心に据え、海外から認知度の高い日本発キャラクターを登場させることで、従来の「鉄道沿線遊園地」から「日本型テーマパーク」へ進化を遂げる。しかし、沿線外に訴求するには「あと2つの要素」が必要だ。
西武園ゆうえんちの外側に足りない「2つの要素」
西武園ゆうえんちの準備は整った。しかし、それはゆうえんちの敷地内だけだ。西武園ゆうえんちの集客を全国、全世界に拡大するためには、あと2つの要素が足りない。「アクセスラインの演出」と「ホテル」だ。
アクセスラインは、既存の交通手段とテーマパーク入口をつなぐ乗り物だ。クルマでやってきて駐車場から入場するというルートも大切だけど、西武鉄道としては鉄道利用を促したい。公共交通の利用を促す仕掛けは、意識の高い人々が掲げる「SDGs」にも沿う。
例えば、JR舞浜駅と東京ディズニーランド、東京ディズニーシーを結ぶ「ディズニーリゾートライン」は、随所にキャラクターを配したモノレールを運行して気分を盛り上げる。大分県のラクテンチもメイン入口はケーブルカーで、イヌとネコを模した車両が走る。近鉄生駒ケーブルカーも生駒山頂遊園地のアクセス路線として、イヌとネコを模した車両が走る。
この仕掛けに対して、現在の西武園ゆうえんちのアクセス手段となる西武山口線「レオライナー」はいささか寂しい。レオのヘッドマークがあるだけで、飾り気のない新交通システムのままだ。導入された36年前は先進的で未来感がある乗り物だったけれども、全国に存在する新交通システムは都市の便利な乗り物だ。楽しさの演出に欠ける。
西武山口線は前述の通り、おとぎ電車という楽しい乗り物から始まった。その後、72年から84年まではSL列車が走っていた。「西武園ゆうえんち」が60年代をテーマとするなら、SLのほうが似合っていた。しかし、36年前に線路を剥(は)がしてコンクリート軌道とし、ゴムタイヤの白い箱形車両になってしまった。
西武園ゆうえんちのリニューアルに当たり、入退場を山口線の「西武園ゆうえんち前」に限定した。従来の西口にあたり、いままで中央口は閉鎖する。これに先駆けて、今年3月13日に駅名を変更した。
西武多摩湖線の「西武遊園地駅」は「多摩湖駅」に、西武山口線の「遊園地西駅」は「西武園ゆうえんち駅」になった。ややこしいなと思ったけれど、入退場を旧西口に統一するとなれば分かりやすい。
できることなら、遊園地入口に飾る路面電車をここで走らせてほしい。しかし、新たに線路を敷くにはコストがかかりすぎる。山口線の車両は製造から36年も経過しており、いずれ更新することになるだろう。それまではラッピングを施すくらいは考えていると思う。願わくは、新車更新時に西武園ゆうえんちへの期待を高める車両にしてほしい。
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